音が戻る瞬間
密度ある空気が暗く。絶え間ないアラームが耳の中を鳴らす。
起きて寝て、起きて、死んで、起きて、寝て、起きて。瞬間が何度も何度もやってくる、この世で何よりも短い10分間のリレー。
静かに私は体を持ち上げる。今日もまた重たい体、質量48kg。昨晩測った。
グレーの皺が乱れるトレーナー、下は紺色のジャージ。髪は伸ばしている男性位に短い、その方が朝の手間が少ないと気づいたから。
とりあえず、分針に背中を押されて顔を洗う。鏡に映る自分は白。ぐらついて洗面台に体重をかけて、落ち着くまで下を向く。落ち着いたら、服を着替える。
居間に戻ってドレッサーを横切る。そちらに手を伸ばして、マスクを一枚引っ掴み、机の上に投げ捨てておく。
前日、何を着ていただろうか。出来ればその前の日までは何を着ていたのか覚えていたら、今日の選択が楽なのだが、頭がうまく働かない。とりあえずあまり気に入っていない服を引っ張り出し、着た。
バックに先程投げ捨てたマスクを突っ込む。ゆらゆらと玄関に向かう。
向かう。向かうのだ。
部屋の明かりを消す。暗くなったので、玄関の橙色の電球をつける。
「……いきたくない」唇が震えた。気のせいだ。うん。
玄関には、届けられた電気使用量明細が挟み込まれている。橙色が反射する。
手首の時計盤を見る。分針は正しく動き、また私の背中を押す。
扉を開け放つ。流れ込む音に私は進む。




