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切れない電話
冷たくて澄む空気。私の声はするのに、聞く相手が不在である。そんな時、私の声は何処へ行くのだろう。
無視ではない。から心は痛まない。けれど何かがすり減っていくような感覚はある。
「あれ、寝てた?」
「うん、寝てたよ」
「うん、起きる、今起きた」
そう言って彼は起きるつもりになるけれど、すぐにまた私の子守唄紛いで眠る。随分と私の声はすてきなものらしい。
昔の私と彼は電話でこれをしていた。私は急に不在になる彼に何度か焦り、何度も呆れた。
今の彼はベットと私の言葉の合間に挟まって眠る。心地良さそうに。
「起きないでね」私は矛盾を言葉にする。寝返りを打って、彼の方に顔を向ける。
昔の私達と何か変わっているのだろうか。かつて切ることが出来なかった電話と眠ることが出来ない心が私の中で寄り添うように近似する。
この時間において、ずっと私たちの距離は変わらないのかもしれない。そうするとすり減っていく感覚とは何なのかな。
あぁ、彼を大人っぽいと思う心かな。笑える。
けれど、私もなのかも知れない。
この時間、この瞬間は小声と隠れて電話したあの制服姿の私がそこにいるのかも知れない。




