17/93
開かない自販機
昔、母は駄々をこねる私に自販機で飲み物を買った。優しく頭を撫でてから。よく。
……
劈くような言葉が耳の中へ入ってそのまま抜けていく。ちりちりとした響きだけが残って私はため息を吐きたくなる。
「嫌だ。それはしたく無い。歩かない」
何を言っているのかな。聞こえないな。抱えようとする母の体はとても軽く。これでもかというくらいに力強い。
泣きだす。
何をやっているのか、私は。その表情を見て、ぐっと堪える。
彼女の手がぐっと私の腕を掴む。爪の長さは幾分も無いから肉を削ったりはしない。肉を削ったりは。
「もう本当にごめんなさい。許してください」
言葉を作る母を見る。私は言葉を溜める。ボタンが何度も押される。頭からは雪崩の様に言葉が流れてくるけれど、口の中に溜め続ける。
「……許してください。誰か分かりませんが、本当に」
更にアルミがガシャガシャと音をたてる。ずっとやかましくなっていく。これを開いたらもうお終いだろうなと思う。
私は母の頭を撫でた。落ち着けるために。ゆっくりと頭の形に沿うように。
私は鳴り響く頭の中と言葉たちを精査する事は無い。言葉に貼り付けられたラベルを見ずにぐっと全てを飲み込んだ。




