最後の1ピース
皆、自分の人生に満ち足りなさを感じながら生きているのだと感じたのは、大学生の時こちらの自室の中でひどく泣き喚いている女が元彼に恋焦がれて心臓を強靭に拍動させているその胸中を僕に打ち明けていた時だったろう。
「ねぇ、酷いよね」
「酷いですね」
「……」また涙が追加で支払われたらしく、ドバドバ。
高校からの先輩の彼女。彼女もまた先輩であった。彼女の普段着の防御力は一般的な女性に比べて弱い。制服では無くなったその服装を見ると、僕は『胸襟を開く』という慣用句を思い出す。目は谷間に引き寄せられて、その引力は心根の理解とは程遠いところにある引力である事を思わされる。彼女がその差をどう思っていたのか分からないが、少なくとも強調的な胸元を攻撃的に利用している風は感じた。
「君はこんな姿の私を嫌な女だって思う?」
僕は口を噤む。女が言葉を続ける。
「嫌な女だよね」
「どうですかね」
口の動き、腰の反り具合、やけに艶のある整った髪、猫を思わせる。
女は僕に近づく。僕はシャツを1番上のボタンまで閉めていたが、彼女はその1番上のボタンに触れて、それを外した。また『胸襟を開く』という言葉が過ぎる。僕は彼女に心根を知らしめたか、疑問する。
「浮気相手はどうしたんです?」僕は聞いた。
彼女は何も答えなかった。第二ボタンに手にかけていて、止まる様子もない。何も知らない、彼女について、その胸囲のアルファベットすら知らない。けれど、彼女は止まらずに僕のボタンを全て外して、開いた右首元に噛み付く。血を吸うわけでも無い、意味もない行動。されど僕も昂る。意味のない行動を返す。また彼女も返す。
胸襟を開く、その言葉の意味を理解することは霧を掴むように感じて、脳みそから消え去る。その答えが人生のピースと思いながら、それを忘れて、それを目的に行動をする。女も僕も。




