底の見えない水溜り
私の家は庭が広くて、自動車が5台ほど止まれる広さがあった。今日は雨が降る。私はぼんやりとした表情で土曜の朝、出窓に肘をつく。
「雨降ってるね」小さな声が私の横で生まれる。それは、血色がいちごの様に艶めく純白の肌を彩る。小さな手で、大きな眼を持っている。
「降ってるね」
「ね」
返す言葉に、返す言葉。会話は続く気配もなく、ただ雨音だけがずっと聞こえる。
「雨の日って、外に出たこと無いんじゃない?」
「ない」
私はこの子の傘もカッパも見たことがない。記憶にないだけがも知れないが、雨に遊ぶ少女が頭に浮かばない。
「水溜り、すごいね」
「凄いね」
「おっきいね」
「大きいね」
少女の眼は私のものよりもずっと大きく見える。真実ではない。比率の話、ほとんど眼球は大人と子供で少しの差しかないって話。身長は3倍、4倍になるのに。
綺麗な目が私の虚でぼんやりとした目に映る。雨の日にそれほどまでに何を見るのか。
「水溜り、おっきいね。海みたいだね」
海みたい。内心、その言葉に諦念と嘲笑が頭の中にはパチパチと雑に散る。
あの子の中にはその水溜りが底の見えない大海に見えているのだ。世界は思っているより大きくて、期待感と希望感に満ち満ちている。この子はまだ雨の日に外に出たことが無い。
私は外を見て、傘をイメージしてそれを水溜りに打ちつける。ほんの少し跳ねる雨水。
横を見る。少女はいない。




