鍵のない錠前
自分で変更する事ができるんだなと、私はその時初めて知った。
玄関の錠前を鍵穴とレバーハンドルをまとめて交換する。父親が黙々と作業する背中が今も脳裏に焼き付いている。
「何で変えてるの?」ガチャガチャと金属音を鳴らす父親に私は言葉をかける。
けれど、私の質問に父親はうんとか、あぁとか気のない返事を寄越す。それを聞いて満足したわけでは無いけれど、それを聞いただけで言葉を繰り返すことはしなかった。
この扉はずっと鍵を開けていた。内側からは手動で開けられる機能はあったらしいけれど、壊れていた。それに伴って、そこに使う為の鍵もない。開けっぱなしの玄関ドアがその扉だった。
春には玄関扉を開けた四角形から桜を眺める事ができた。夏には葉桜が、秋にはその紅葉が、冬には雪が積もった。多くの写真に残っているそれが、現在の私とかつての私を繋げている。
かつての私は鍵を付け替えているところを眺めている。座りながら、肉感のある頬を携えてむっすりとした顔で父の後ろにいた。
どんどんと作業は進んでいって、最後のネジを締める。
「さぁ、出来た。昼ごはん食べよう」父はそう言った。私を家に引き入れて、新しくなった鍵を後ろ手でガチャリと閉める。
何で変えてるの?疑問の答えは知っている。私の為である。そして、社会のせいである。




