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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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鍵のない錠前


 自分で変更する事ができるんだなと、私はその時初めて知った。


 玄関の錠前を鍵穴とレバーハンドルをまとめて交換する。父親が黙々と作業する背中が今も脳裏に焼き付いている。


「何で変えてるの?」ガチャガチャと金属音を鳴らす父親に私は言葉をかける。


 けれど、私の質問に父親はうんとか、あぁとか気のない返事を寄越す。それを聞いて満足したわけでは無いけれど、それを聞いただけで言葉を繰り返すことはしなかった。


 この扉はずっと鍵を開けていた。内側からは手動で開けられる機能はあったらしいけれど、壊れていた。それに伴って、そこに使う為の鍵もない。開けっぱなしの玄関ドアがその扉だった。


 春には玄関扉を開けた四角形から桜を眺める事ができた。夏には葉桜が、秋にはその紅葉が、冬には雪が積もった。多くの写真に残っているそれが、現在の私とかつての私を繋げている。


 かつての私は鍵を付け替えているところを眺めている。座りながら、肉感のある頬を携えてむっすりとした顔で父の後ろにいた。


 どんどんと作業は進んでいって、最後のネジを締める。


「さぁ、出来た。昼ごはん食べよう」父はそう言った。私を家に引き入れて、新しくなった鍵を後ろ手でガチャリと閉める。


 何で変えてるの?疑問の答えは知っている。私の為である。そして、社会のせいである。

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