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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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開かない引き出し


 引き出しがあったとして、私は開かない。そういう人生だった。生まれた時から。


 同級生の肩は目の前にあった。それは手の届く範囲で1人でその場所に緊張している。けれど、私は触れなかった。

 好きなパンがいつも購買に売られていた。それは焼きそばパンで、腕にスライスされた卵が乗っていて。けれど、私は取らなかった。

 バイトを一緒にやらないかと誘われた。それは時給もよく、友人もいる働くにはもってこいの職場だった。けれど、私はやらなかった。

 好きな彼の顔はいつも私と向き合っていた。それは笑顔が煌めいていた。けれど、私はその手には触れなかった。



 馬鹿だよな。暗い部屋でポツリと呟く。使い古されたレディーススーツが私の少し先の未来みたいに吊り下げられている。


 何処で間違えたのだろうか。冷蔵庫からオレンジ色の光が私を照らす。食材はほとんど入っていない。水はあったから取り出して、飲む。本当はお腹が空いていたが、水を飲んだ。


 口には卵焼きの味が流れる。作らなかった。


 私は椅子の上に上がる。普通に息をして、普通に首吊りロープを手に持つ。はぁ。


 いろんな事を思い出す。一応、セルフ走馬灯。うん、じゃあ、良いか。


 そう思って、踏ん張って、やってみて、首を入れるところで、止めた。


 自分ぽく無いなと思った。机のつっかえた引き出しも開いていない。そうなのに、そんな私がこの大それた事が出来るはずもないだろう。


 馬鹿馬鹿しい。


 何が出来よう。何も出来なかろう。

 

 

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