開かない引き出し
引き出しがあったとして、私は開かない。そういう人生だった。生まれた時から。
同級生の肩は目の前にあった。それは手の届く範囲で1人でその場所に緊張している。けれど、私は触れなかった。
好きなパンがいつも購買に売られていた。それは焼きそばパンで、腕にスライスされた卵が乗っていて。けれど、私は取らなかった。
バイトを一緒にやらないかと誘われた。それは時給もよく、友人もいる働くにはもってこいの職場だった。けれど、私はやらなかった。
好きな彼の顔はいつも私と向き合っていた。それは笑顔が煌めいていた。けれど、私はその手には触れなかった。
馬鹿だよな。暗い部屋でポツリと呟く。使い古されたレディーススーツが私の少し先の未来みたいに吊り下げられている。
何処で間違えたのだろうか。冷蔵庫からオレンジ色の光が私を照らす。食材はほとんど入っていない。水はあったから取り出して、飲む。本当はお腹が空いていたが、水を飲んだ。
口には卵焼きの味が流れる。作らなかった。
私は椅子の上に上がる。普通に息をして、普通に首吊りロープを手に持つ。はぁ。
いろんな事を思い出す。一応、セルフ走馬灯。うん、じゃあ、良いか。
そう思って、踏ん張って、やってみて、首を入れるところで、止めた。
自分ぽく無いなと思った。机のつっかえた引き出しも開いていない。そうなのに、そんな私がこの大それた事が出来るはずもないだろう。
馬鹿馬鹿しい。
何が出来よう。何も出来なかろう。




