乾かない絵の具
「電話をするの、しんどい」この言葉の中にある気持ちを僕は汲み取る。
額縁の前には、まだ薄らと下地の色が透けて見える絵がある。
心は流動性がある。汲み取るものだし。
僕の目の前には彼女の姿を似せた優美な女性が映る。それは流し目で凍刺す眼光がこちらを覗いており、赤いドレスをまるでマタドールの様に挑戦的に旗めかせる。
パレットの上に僕はもったりとした絵の具を乗せる。大量に本当に大量に乗せる。彼女は実に赤々しく、扇情的に私の前に現れた。テキーラに刺す様な刺激的な酸味が冷ややかに飛び散る。踊り舞う。
音が聞こえる。雅楽の音色にも、カスタネットの破裂音にも聞こえる音楽に彼女は乗り、足と腰を揺らす。捉え所なく動きまわり、黒くたなびくアイシャドウが表情を明滅させる。
誰もいない、彼女だけが踊る。私はそれを外から見つめている。彼女の気が散らない様に、私は自分の存在を実に矮小に整形して体を縮こませる。そうでもしなければ、集中すら出来ない。
彼女は起伏に富む。絵の具を盛り、彼女の見えるだけの形を作る。流動性を抱えながら、麗しき彼女は踊る。
熱感は最高潮をキープして、汗を散らし、その形は乾燥する。彼女は絵に浮き出る。流動性は失わない。




