底の抜けたバケツ
「バカ言いやがれ、飲みやがれ」言いながら、友人の頭を叩いて、俺の頭もまた友人が叩く。笑い合う、ふざけ合う。
一軒家の一室。友人の家。30代の年齢にもなると、車を持っている奴、家を持っているやつ、結婚しているやつ、子供がいるやつ、金を持ってるやつ、幸せなやつ、不幸なやつ、色々な差という物が出てくる。
友人は新めの中古一軒家をローンで買って、その支払いが60歳まで続くらしい。その将来を見据えるとしんどい気持ちになるけれど、彼には妻と子供がいる。それを思えば、彼は頑張れるという。
アルコールが友人の口角を上げる。
「だぁ、うまい」また俺の頭をバシンと叩く。俺もまた友人の頭を叩く。友人は思いっきり言葉にならない言葉を大きな声で叫ぶ。
妻子はいない実家に帰省しているらしい。解き放たれた今を謳歌するみたいに彼は大声を出す。俺もまた声を上げた。
雨が肩を濡らす。傘は友人から借りた。少し歩いて酔いを醒ましたいから、山道を降ったところのコンビニにタクシーを呼びつける。
叫びたい、叫び足りない。熊でも出そうな山道。良い年したオッサンが何を叫ぶ。山は期待していそうで、どこか呆れていそうな感じだ。
道端にバケツが落ちている。底無しのバケツ。ツボの中に妖精がいる話聞いた事あるなと思う。酔いの頭はずっと俺を馬鹿にしてくれる。
俺は叫ぶ。何処までもいつまでも、底無しなんだ、どれだけでも俺の言葉を飲み込めよ。飲み込んでくれよ。手厳しいさ、色々。
でも良いだろう、タクシーが来るまでぐらい。
叫ぶ。




