崩れた鳥籠
家に鳥籠がある。それの中には鳥が入っているはずなのに家の鳥籠には鳥は入ってはいなかった。
「姉貴!」
「何?」
「昼飯は?」
「知らない、冷蔵庫に入ってるんじゃない?私は午後から仕事だから出て食べるから」
冷蔵庫にのそりのそりと近づくその大きな生き物はシワだらけの服を着て、ハリネズミの様なヒゲを蓄えている。
「何もないんだけど」
「何も無いわけないでしょ。米櫃の中の白米を炊けば食べられるし、野菜は野菜室になんでもある。肉は冷凍庫に小分けして入ってる。鶏肉も豚肉も、牛肉も。胸肉も、もも肉も、バラ肉も、つくねも、ひき肉も」
「ちっ」舌打ちをする生き物。私は落ち着くために息を吸い込む。深く。
「カップ麺はないよ。あんたが昨日の晩、夜食に食べたのが最後」
「……はぁ、買ってろよ。ちっ」また舌打ち。
私は鳥籠を見る。昔は鳥を飼ってたんだよって母は言ってた、セキセイインコか何か詳しくは知らない。けれど今、その中に鳥はいない。
母は買い物に行っている。母に聞きたい。実家はぐるっと塀に囲まれていて、車の帰って来ていないのは少なくとも分かる。
私は部屋にかけられた鳥籠を見る。鬱蒼と生い茂った植物が垂れ下がる。同時に生き物を見る。
美しかったろうか、過去は。羽根もなく、地面を目指す植物のそれは。また舌打ちが聞こえる。




