外れない義眼
「ねぇ、あなたはいつしっかりするの?」ラップに包まれた夕食を私は見る。母は私を見て言う。
「しっかりって、何がしっかりなの?」私は聞き返す。
「そんなの分かりきってるわよ。拓ちゃんみたいに生活する事よ」母の口から弟の名前が出る。拓ちゃんね。
夕食にかけられたラップを外す。熱でラップに水滴が溜まっている。母の前にも食べかけの夕食が並んでいる。
静かに椅子について、手を合わせる「いただきます」。箸をとって、椀を持ち上げる。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「なら、何とか言いなさいよ」
「あのさ、拓ちゃんみたいってそんな主観だけで分かるものじゃないでしょ。誰々みたいにって子供じゃないんだから」
「小うるさい子になっちゃったわね。ほんと。拓ちゃんみたいに結婚して孫の1人でも見せてほしいって言ってるの」
筑前煮に箸を伸ばす。塩辛い。母の目ははっきりと開いていてこちらを見ている。
「結婚しろって私の努力で出来るものじゃないでしょ。1人で子供なんて出来ないし」
「そう言うことを言ってるんじゃない。努力しているのかって聞いてるの」
「努力してるよ。これで満足?」
母の顔がみるみると赤くなるのが分かる。
いつもこうなると母はリビングを去る。ふかふかのソファで何コールしても出る事のない拓ちゃんに電話をかける。明日の朝、返ってきた短いLINEの文面に優しい返信を返す。
私はあなたを見ている、母よ。あなたはその開いた目で何を見ている。私は問い、また明日も働く。




