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約500文字の毎日  作者: 端役 あるく


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落ちた名札


「落としましたよ」

 僕は拾い上げられた首からかけるタイプの名札を受け取る。


「ありがとうございます」


「◯◯課の方なんですねー」名札を拾った女性が言った。


「はい、そうですね」僕は名札をカバンの中に突っ込む。空気の行方が分からなくなって、頬をぽりぽりと人差し指で掻く。


「二宮さん、いい苗字です」


「そうですか?」


「えぇ、すごく」


「で、では」と言って、僕はその場を去ろうとするけれど、女性が行こうとする僕の腕を掴む。


「連絡先、教えてください」


「えっ?」


「連絡先です、LINEでも電話番号でも。ご飯行きましょうよ」


「ね!」と煌びやかに光る笑顔で、僕の懐に入り込んでくる。僕はその行動に一歩後ろに引いてしまうと、それ以上身動きが取れなくなる。


「い、いや、ちょっと」僕の指に嵌っている指輪が光る。彼女はそれに気がついた様で一瞥してから僕の方を見る。


「結婚してたんですね、それでも良いですけど」ぐっと、さらに距離が詰められる。その時、バタバタと小さな足音がこちらに近づいてきた。


「何してるの、お父さん?」


「ん、いや……何というか」今の状況を説明しあぐねる僕。


「ほら、おいで」女性は僕から目を離すと、息子に対して手を広げて、呼び寄せる。


「何してたの、お母さん?」


「ん?お父さんと遊んでたの。昔みたいに」


「仲良し?」


「仲良しよ、ね。二宮さん」


 脳裏に過ぎる昔が、僕の頬を染める。バタバタとして、踵を返す。


「行ってらっしゃい」


「あぁ、行ってきます。佐々……いや二宮さん」


 目の前の女性はにんまりと笑う。抱き抱える子供の手と2つ、こちらに手が振られる。


 玄関、表札に3つ名前が並ぶ。

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