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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
動き出す大国
303/306

もう一つの戦場 調停者の戦い

 翌朝。降雨が収まったその場で、ミレネイルの一行は、それ以降の行軍をおおやけとするものと共有し、国旗の掲揚を行った。


 バルドー要塞。

 陥落したその確認をまさに行っていた、新カルネリア王国の軍勢の展開する北側に、200名余りの軍勢が突如として現れる。


 掲げられた国旗を目にした誰かが、警戒を強め、それが悠然と近づいてくるに従って、それは交戦準備へと変わった。


「使者として発ってくれるものはいるか?」

 随伴する間諜の一人が挙手をする。


 カルネリアへの潜伏も経験し、言葉も話せると申告があり、脱出用の魔石を持たされ、駆け出していった。


 間もなく、交戦警戒が解かれぬ中、使者が人を連れ戻ってくる。


 コージィが名代に立つと決まり、サウザンドは随伴する軽装兵としてその場に臨席する事が共有された。



 仮設の野営が築かれる中、相手から出された人材は、怯えた様子でミレネイルの面々の前へ立つ。


 僅かな会話と共に、通訳を介し、敵意がないことが伝えられると、それでも、男は一人怯え、作られたばかりの親書を持って、自らの軍営へと帰っていく。



 双方の警戒体制が解かれたのは、新カルネリア側の使者が戻って暫くしてからの事だった。


 と同時に、新カルネリアの軍勢、その本体が、ミレネイル一同の前に立つ一部を残して動き出す。

 正面から使者が歩いてきていた手前、サウザンドは表情を歪め、それを見送るしか無かった。


「あれだけの損害を出しておいて、まだ行軍を続けるのか!」

 近衛の一人が叫ぶように漏らす。誰の目にも、彼の軍勢の疲労と厭戦えんせん感が明らかであった。


 バルドー要塞の防衛網の中には、未だ多くの死体がそのままに放置されている。

 弔われることも無い、その理由は、戦場に処理される事なく残っている、バルドー国の抵抗の証である、多量のマキビシであった。


 迂闊うかつに踏み入れることが出来ない。

 与えられた損害は、そのままに受け入れられるものではない。

 要塞を占拠することではなく、進軍の意向を指揮者が示した。


 使者が伝えるそれらを聞きながら、誰もが憤りを内側に秘めた。


「書面の翻訳、済みました。」

 筆談で行われるやり取りに、苛立ちながらも、コージィは渡された紙面に目を寄せる。


「怪異を用いて、旧国と共に我が国を脅かすと確信を得たスラールに対して、それを挫くものとする。だそうだ。連中は襲ってきた怪異とは無関係だと伝えたんだろう?」

 間諜が頷く。筆談に於いて、それは既に伝えられたはずであった。


「もう一度だ。向こうの指揮官と話したいとも伝えろ。」

 その言葉に対し、間諜は首を横に振る。


「口頭で今話していた所、軍を任された司令官は、既に進軍したと。」

 コージィはその言葉を聞いて、その拳を強く握りしめたが、行き場に困り、困った末に、サウザンドの顔を見て、それを静かに、自らの内へと戻す。



 交渉に足を取られ、その場に留まらざる得なくなったミレネイルの一行が、再度状況を変えたのは、バルドー国西部へと出していた近衛率いる偵察部隊と、ニアが、その場に現れた事だった。


「サザウ国から発った衛士隊部隊が、コヴ・トウコの指揮の元、西部の平野で迎撃の体制を取っています。要塞から逃れたバルドーの民兵の再編部隊もそこへ合流しています。」


 最悪だ。サウザンドが抱いた感情はそれだった。


 恐らく、あの幢子おねえちゃんの事だ。

 何らかの勝算の策を抱いてそこに立っている。


 単純に見ても、新カルネリア王国の、戦力や兵装、疲労、厭戦感をかんがみれば、以前垣間見たサザウの衛士隊を前に、決して少なくない被害が出るだろう。


「ニア、サザウ国の連中を止めることは出来ないのか?」

 コージィのその問いに、彼女は首を横に振る。


「コヴ・トウコは私にもわからない、何かを用意している。そしてそれは、恐らく成功してしまう。」

 その言葉に、サウザンドが表情に明らかな焦りを見せる。


「詩魔法?」

 彼女の問いに対し、ニアはそれまでの笑顔無く、表情硬く、頷く。


「詩魔法師エルカを始めとし、衛士隊、ディル領の詩魔法師が多く随伴している。恐らくは。それに、以前にも彼女たちは戦場で奇跡を見せいる。それに活路を見出す者は、決して少なくないわ。」



 使者との意見交換は急遽打ち切られ、戦場への移動が始められようとしたまさにその時、再び、その場に残った新カルネリアの軍勢から、使者が走ってくる。


 それに取り合った間諜が、慌てて、コージィではなく、サウザンドの前に立ち、留める。


「新カルネリア王国、国王、セイリムを名乗る者が、使者を介して会談を持ちたいと!陛下を名指しです!」


 その言葉に対して、誰もが唖然とし、怒気にも似たそれが周囲に立ち込める。


け、ミリィ。」

 静かに、しかし確かに、コージィがそれを言う。


「お前一人がくのなら、その場に間に合うかもしれない。こっちは俺が応対する。どういう理屈でソレを知ったかわからない内は、お前が居ない方がむしろ、俺達の国は、安全だ。」


 コージィの目を見て、しばらく。


「サウザンド。行って。サザウの領主でもある私も、ここでコージィの役に立てるかもしれない。貴方は、トウコ様がしようとしているそれを、見てきて。それからでも、貴方が、貴方の民たちのためにしようとしている事は、きっと間に合う。」


 ニアの言葉がその場に入り、二人を交互に見て、サウザンドは頷く。


「すまない。みな、私をかせてくれるか?」

 それを、その場に整列する各々に問う。


 彼らは、各々の信念を持って、次々と、君主へ軍礼を捧げる。


「感謝する。コージィ。皆をしばし預ける。ニアも宜しく頼む。生きてまた、必ず。」



 サウザンドは走る。

 背負カバンにあるのはたった一人分の物資と、十数個の魔石。


 それで、戦争を前に何が出来るというわけでもない。

 それでも、日の沈む方向へ向かって、平野部を懸命に走り抜けた。

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