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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
動き出す大国
302/306

もう一つの戦場 雨の中

 ミレネイルの強行部隊が潜み、傷痍兵しょういへいたちの夜営地は夜明けを迎える。


 雨中の早朝の薄明かりに、彼らは、その場を守るように展開する人影を見かけるが、それは僅かな間の事だった。

 あくる朝には、撤収の判断をしたサウザンドにより、一行はその場を離れることになる。


 怪異は、恐らく、もう潜んでいないのだろう。

 その判断は正しく、その夜の惨劇を逃れ出た怪異は、居なかった。



 雨の中の移送で、傷痍兵しょういへいたちは、ラルタ港から向かってきていた後続軍に合流を果たすことに成功する。


 小雨の潮風に揺れる、その軍旗を見届けた彼らは、帰郷への望みが繋がれた安堵に涙を流したが、その頬は直ぐに雨にあめれ、互いにそれを気づくことも、指摘することもなかった。



 残した人員が陣を構える廃村へ帰参を果たしたサウザンドは、再び、バルドーの地を林間部から進んでいく。


 ニアの姿は消えていたが、彼女の手配した案内人たちは陣に滞在をしており、それを頼って、進路計画が練り直される。


 アキサダの姿も、現れた虫人、ナッキーと共に消えていた。


「いいのか?アキサダは戻ってきていないぞ?」

 いざ旅立ちとなるその場で、コージィは彼女にそれを問う。

 黙したまま頷くその姿に、出立の号令が響く。


 設定された目的地は、建設が進んでいたという、バルドー国防衛の要である要塞地であった。

 案内人たちに拠れば、バルドーの民兵たちと、新カルネリア王国の攻防が続いているという話であった。


 この戦争は急ぎ、止めねばならない。

 誤解と、策略。

 その一端を垣間見たサウザンドの胸中にあったものはそれだった。


 新カルネリアに野心があるかどうかは、今は定かではない。

 いずれ海を挟んで、対立する国家となる恐れも消えては居ない。


 しかしそれを置き、怪異や人身売買を行う、古いカルネリア王国の存在は、自国にとっても、スラールにとっても、の国にとっても共通の、敵、悪意であると認識を強めていた。


 少なくとも、この戦争に、幢子おねえちゃんが大きく関与すれば、それが後に波及する、何かが生み出されかねない。


 ただの技術革新か、想像もつかない何か、か。

 或いは、詩魔法。


 それが新カルネリア王国に向けられた時、それは却って、周辺諸国の首を絞めかねない。サウザンドはそう、確信をしていた。


 詩魔法の根幹にあるそれを気づき、この世界の幢子おねえちゃんもそこへ辿り着いてしまうかもしれない。

 サウザンドは、それを恐れていた。



 案内人の進路が変わり、荒れたスラール旧街道から外れ、獣道のような林道に入ったことで、目的地が近いことを一行は悟った。


 日は暮れ始めている。

 順調に森を抜けた所で、それは夜遅くとなるだろう。


 あの日以来、森に先の見えない程の霧は立ち込めていない。

 しかし、はやる持ちを押さえつけるように、度々悪路が立ちふさがる。


 部隊の面々にも、僅かに疲労の色を見せ始めていた。



 残酷な時間の流れを経て、森を抜けた所で、彼女の懸念は現実となって突きつけられる。


 夜更けとなったその頃合いに、夜目の付与をまとって、偵察にでた一行が垣間見たのは、新カルネリアの兵たちが死屍累々とする戦場の名残であった。

 装備の違いから、それが驚くほど少ないながらも、バルドーの民兵らしき亡骸も点々とある。

 塹壕戦が行われたと思わしき戦場には無数の矢と、雨に泥濘ぬかるんだ中に撒かれたマキビシ。


 要塞奥深く、拠点となっていたであろうその建物は、まるで少し前まで人が居たかのような名残をみせる、誰も居ない廃墟と化していた。



 その場所に、幢子おねえちゃんが居たのだろうか。

 兵装や惨状から見て、これほどの戦況を狂わせ、長引かせた策を感じさせる。


 その背景に、怪異への警戒が、新カルネリア側にあったとしても。

 或いは、それだからこそ、新カルネリア側に、より敵意が駆り立てられたとすら感じられた。


 徐々に強まる雨の中、失意に暮れ、偵察と共に戻ったサウザンドの姿に、誰もが心を同じく痛める。


「どうするんだ。」

 コージィの問いは、連れ添った友人としての声ではなく、主の判断を仰ぐそれを意味している事は、彼女には直ぐ解った。


 近衛兵を始めとした、部隊の面々は、整列してそれを見守っている。


「進む。どのみち、サザウ国へは出ねば、帰国は出来ない。」

「行ってどうする。新カルネリアと戦うのか?」

 返ってきた言葉の口調から、それは友人ではなく、戦友としての言葉だと理解をし、彼女は口をつぐむ。


 そんな局面は、過去に幾度もあった。

 国を奪い、皇帝となる決意をした時も、そうであったと思い返す。


「どちらとも、戦わない。軍旗を高く掲げ、両国に、そこにミレネイルの存在と威を示す。」


「調停役にでもなるつもりか?それがお前にできるのか?」

 厳しい返答に、同時にそれは友としての問いだと納得し、彼女は自らの未熟さを感じ、はじて唇を噛み、それを滲ませながらも、頷く。


「やらなければならない。帝国ミレネイルの皇帝として、カルネリアの悪意と脅威、それと、未知なる脅威に対抗するために。」


 雨の中そう下された決意に、彼らは黙して、表情硬く、頷きあった。

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