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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
動き出す大国
299/306

もう一つの戦場 森林に潜むもの

 ベル・ラルタ海峡よりもやや北西部。スラールの北部森林部に直接接続する海岸線へミレネイルの船団が到達したのはバルラナを発ってから四日後の事だった。


 沖合に停泊した船団から、手漕ぎ小舟を用いて物資と人員の上陸が行われ、一日が経過し、夕刻となった。

 幸いにも、ミレネイルの船団、新カルネリア王国の船団が、それぞれを発見することはなかった。


 下船した200名の編成部隊が上陸を果たし、残る船舶従事兵は最低限の物資で、パルネア島を経由しバルラナへ戻る手筈となっていた。



 夜の海岸で築かれた天幕の中で、以後の進路計画の調整が行われる。


「スラールは久しい。北雪へ渡る際にナッキーらと海峡を渡ったのだ。それはそれは古い話だ。当時はこの様な深い森も無かった。恐らくこの長い期間で築かれたものだろう。実に興味深い。」


 カタカタと歯を打ち鳴らすアキサダが一人感慨にふけっている中、サウザンドたちは、ニアより入手した地図を本国で複製したものを広げ、にらんでいた。


「この、スラール旧街道という林道を辿り、バルドー国の中部、銅鉱山を目指す。途中、放棄された村なども見受けられるかもしれない。そういった場所があれば、そこを野営地として進んでいく。陛下。いかがでしょう。」


 先の事件の際の経験を念頭にコージィが提案したものを、彼女は了承し、親征部隊は背負カバンに物資を詰め、出立に備える。


 明朝、彼らは森林部に入り、幸いにもスラール旧街道へ乗り入れを果たす。



 間諜の偵察が行われる中、悪路を避け、森を深く進んでいく。


「霧が出てきたな。」

 誰かが言う。その言葉を皮切りに、見渡せば、視界の見通しが悪くなっていく。一行が立ち止まる中、淡々と歩み続ける姿があった。


「何も恐れる事はない。これは知っている。そうか。そうか来ているのか。懐かしい。懐かしい。」

 霧に溶け込んでしまいそうな白い外套を揺らしながら、道を進んでいくアキサダの背中、彼らも再び歩を進めそれを追う。


 暫く歩いている中で、徐々に林道を外れ、深い霧に包まれた廃村が姿を表す。


「待っていました、サウザンド。コージィ。」

 その入口で立っていたのは、数人の手勢を連れたニアの姿であった。

 村の装いと別に、持ち込まれたであろう篝火が灯され、霧の中、朱色の光を放っていた。


 ニアの肩に乗った、腕の大きさ程ある、身体の細長い半翅目はんしもく、アメンボの様な姿をした虫が、地に降り立つと、静かにアキサダへと近づいていく。


 恐らく会話をしているのだろう、そんな二匹の虫人の様相を見た後、サウザンドはその視線をニアへと移す。


「事情を説明して欲しい。何故、ニアがここに居る。」

 現れた彼女をいぶかしむ部隊の兵たちを遮る様に立ったサウザンドに、それは静かに微笑む。


「案内も無しに、この道を歩くのは未だ危険なのです。この街道は古くより、私たちの一族が暗に管理してきました。当代の責任者は私。ですから貴方達を案内するためにここで待っていた。」


 二人の交わされる声に、言葉が通じるのだと察した一同は、距離を置きつつも、サウザンドの警護のために近衛を中心に周囲を伺う。


「教えて欲しい、ニア。この国で今何が起こっている?カルネリアの兵がこの国に向かって居ると聞いて、船で来たのだけれど。」


「この地に来ているのは似て非なる新カルネリア王国の軍。ご存知でしょう?」

 ニアの返答に、顔を見合ったサウザンドとコージィは、彼女が手振りで促すままに、いざなわれ、歩き出す。




「新カルネリア王国は転移者を集めているの。このスラールにはトウコ様の他、貴方達も面識がある二人の転移者が居る。その内の、ホソカワ・ユカの身柄を求めて、彼らはやってきている。でもそれは目的の一つ。」


 ニアが歩いた先に、音を立てうごめく影がある。それに気づき、まずコージィが身構える。


「大丈夫よ、コージィ。私たちでとらえて、今処理をしているところ。この間と同じ様に。」


 微笑むニアの側で、人の体躯をした、人でないモノが幾つも転がり、それを無数の虫が取り付き、捕食していた。


「新カルネリアは、コ・デナンの策に乗せられてここへ来た。彼がスラールに居ると思い込んでいる。ここへ彼ら新カルネリア王国を誘い込み、スラールと衝突させる。互いを消耗させ、そこを怪異たちに襲わせるのがコ・デナンの策。スラールはカルネリアが、新カルネリアはスラールが、怪異を仕掛けてきたと思ってしまうでしょう。」


「ですから、私はこの森に潜んでいた、スラールを襲う怪異だけを処理したの、ナッキーさんとそのお仲間に手伝って頂いて。それがつい昨夜の話。この村はコ・デナンに依って怪異の拠点になっていた。今は安全だけれど。」


 霧の中を歩いていく三人の前に、焚き火と、横たえた丸太に座る人影が、姿を表す。


「やあ、ニアさん。お知り合いかい?」

 その男は、焚き火の前に座ったまま、虫が怪異を齧り尽くしていく様をじっと見ていた。現れた三人を品定めする様に眺めた後、軽く会釈をする。


 男が発する言葉だろうものを、サウザンドとコージィは理解することが出来なかった。

 それは、彼女たちの言葉でも、スラールの言葉でもなかった。


「彼は、怪異を狩る者。正義の味方と言った所かしら。ナッキーさんたちの古い知り合いで、遠い東の地より来たそうです。」

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