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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
動き出す大国
298/306

もう一つの戦場 バルドー北東部へ

 サウザンドが親征部隊を船に乗せ、帝国ミレネイル東部湾港都市バルラナを船で発ったのは、バルドーが敵軍上陸の知らせを受けてわずか二日後のことだった。


 事の始まりは、冬季半ばに、従軍使節団から離脱し、帝都ペアレスへ戻ったばかりのサウザンドの元へ、サザウ国エスタ領コヴ・ニアからの新書が届いた事だった。


「カルネリア王国に動きあり、だそうだ。」

 ニアからの手紙に目を通していたサウザンドの元へ駆けつけてきたコージィが途中で預かった知らせを手渡す。


「凍結港アルジェアが陥落した?」

 コージィの差し出した手紙を引き寄せ、眼下から紙面を読み取り慌てて手に取りそれをあらためる。


 帝国東岸の沖に浮かぶ、住民拉致事件の舞台となったパルネア島。

 そのパルネア島を挟んで、真東の陸地、カルネリア王国側の湾港アルジェアは、冬季には沖を流氷が封鎖する港であり、位置関係もあり、数年前から帝国の間諜かんちょうが潜伏し調査を行っていた。


 港に軍勢が襲来。カルネリア王国軍は敗走。怪異の影あるも、掃討。

 内乱の発展により、明確な対立国家が発足したものと思われる。とある。


「アキサダはこの事を?」

 帝都に意見役として滞在する虫人の姿を思い浮かべ、サウザンドが問う。コージィは彼女に対し、首を横に振り否定する。


「向こうの事は判らないそうだ。ただ、妙な事は言っていた。」

「妙な事?」

 の虫人の回りくどく理解が追いつかない物言いを思い浮かべながら、サウザンドは紙面を置いて耳を傾ける。


 『お目覚めになられた。あるいは、おいでになる。』

 虫人は、コージィの問いに答えず、最後にそう述べたという。


「ニアからの手紙だ。」

 先程まで持ち上げていた紙面を、彼女はコージィに向けて放る。


 『東より招かれざる客、東より妙客あり。』


「なんだこりゃ。」

 わざわざと領主鑑かがみの押印、装調された包みに香用の柑橘の葉と封蝋までされた、その丁寧な中身に見る、ただの一文に、彼は率直な感想を漏らす。



 程なく、事態は動き出す。

 対岸の間諜より、流氷の間隙を縫って知らせが届き、輸送船に兵具ひょうぐが積み込まれている知るに至る。


 それを海を渡っての戦支度と認識したサウザンドは、バルラナ港に動員可能な船を集め、抑止力の形成につとめた。



 冬季が過ぎやがて流氷は消え、直ぐの知らせにより、対岸で起こっていた一部始終が知らされる。


「アルジェアを制圧したのは、転移者を王とする、新カルネリア王国という対立国家だそうだ。その王は、怪異どもと対立している。」


 同時に、輸送船に積み込まれた兵具ひょうぐは、流氷の封鎖が解けると共に南に向かったとも記されていた。


「なんだ、こっちへの戦支度じゃねぇのか。」

 コージィは報告紙面の頭だけをかじり、早計に安堵を漏らしたが、読み進めていく内に顔色を変えていく。


「行き先は、ベルラルタ海峡を超えた、ラルタ港ぉ?」


「連中の目的は、スラールだ。動向が読めない。実際に何らかの形で目視する、或いは接触してみる必要があると私は考える。」


 落ち着かない彼女の所作が、スラールの知人たちを思い浮かべての事と伺い知るコージィは、その赤い髪を掻きむしる。


「ちったぁ、ペアレスに落ち着いてくれと官吏共にも言われてるだろうがよぉ。近衛と間諜の連中で選りすぐって、送るんじゃ駄目なのか?」


 彼の進言に対して、即応で首を振ったサウザンドは部屋を出て軍議の招集を役人に申し付ける。



 そうして、数日の内に、ペアレスを発ったサウザンドが、東岸のバルラナに到着する。

 規模は300名余り、中型船10隻の編成となり、即応実働可能な戦闘部隊としては可能な限りの兵力であった。


 直轄の近衛、部隊の主計を担う第一兵団からの出向兵、間諜、船舶従事兵といった取り合わせで組織された親政部隊は、パルネア島を経由し、スラール北東岸に上陸し、三十日程度の作戦行動が可能な物資も、船へと積み込まれた。


 船には、珍しい同道者も乗船している。


「船で海へ出るのは、二百、いや、三百年を超えて昔の事か。それはそれは懐かしい。興味深い。海はこうも変わったか。潜ってはただ沈むが、それが許されるなら底を覗きたいものだ。」


 虫人のアキサダがペアレスを出たのは、サウザンドの知る限りでは、即位後、雪深い北部に潜んでいた彼を招いて滞在を願って以来の事であった。


 彼の声の響く白い外套のその下には、彼の手繰る死人の身体と、彼自身となる虫の二つがある事を知っているのは、帝国でもごく僅かであった。


「スラールではナッキーに会ったのであろう。それも興味深い。機会に恵まれるだろうか。いや、そうあるべきだ。なぜならば、お目覚めになられたこの機会との巡り合わせもある。或いは、おいでになる。」


 カチカチと歯を打ち鳴らし、死人がガラガラと彼の代読の声らしきものを発しているのに、立ち会っていた二人は苦笑いを浮かべる。


「その、おいでになるというのは、何なのか?アキサダ。」

 兼ねより、この船の上に至るまでに数度耳に触ったその言葉に、サウザンドはついぞ、尋ねてみる意を実行する。


「大事な方。主。この世に繋ぎ止める唯一の鎖。そう、知らせがある。やがてお近くまで来られる。この転移者らの訪れにも関わりを願って居られよう。いや、好まざると避けておられる。どちらでもある。」

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