第33部 建築の派遣 ライ麦の輸出 第四便
1242年6月13日 ポーランド・トチェフ
*)ライ麦の輸出 第四便
今日の昼にはボブが帰ってくる。農機具も満載まではないが、持ち帰ってくる。オレグは、二台の荷馬車の用意をしていた。
「オレグ! 老婆は使えるの? 何を言われますソフィアさま。まだ若い馬だとう言われましたので、購入しましたのですよ。今貴女が言う言葉ですか!」
「はは、ごめんなさい。老馬でしたわね。でもまだ荷馬車は引けるのでしょう?」
「まだ食う訳にはいかないよ。次の馬の入荷までは、これを含めて二章を書き上げなくてはならないのだ。」
「ふ~ん、でも、もうすぐだね。私、馬刺しがいいな~!」
「やっぱり、お前はオオカミなのだな。」
「そうよ、文句はないでしょう? じゃぁ、今晩、Hする?」
「喜んで~。」
馬が老けているのは、近くにオオカミがいるために、気苦労で一気に生気が抜けたためだが、ソフィアには分らない。実年齢はほんとうにまだ若いのだ。
「ねぇ、オレグ! この老婆で大丈夫?」
「それ、さっきも言わなかったか!」
「そう、あれはお姉さまよ。リリーじゃないわ。」
この二人は、とっかえひっかえで同じ服をきている。もう、オレグにも見分けが出来なくなっていた。
「くそ~リリーめ。ゾフィの変身の魔法を使いやがって!」
リリーには溢れるほどに魔法の力が湧いてくるらしい。春になり、ご自慢のバラ園が満開になっているせいだろう。
「おうおう、俺をからかっているのだな。ならば、その溢れる魔法の力を抜いてやろうか。」
「イヤよ。私から魔法の力を抜いたら、お馬さんのように老けてしまうわ。」
「それでいいだろう。リリー、仕事だ。港から農機具の全部を倉庫に移してくれ。老馬を労わろう!」
「そして、大きく育てて、馬刺しにするんだ。」
「お前も食いたいのかい。先に村人に配るさ。」
「いいえ、解体して氷室へ収めて夏の祭りで食べましょう。」
「夏に祭りがあるのか?」
「ええ、そうよ。昨日に決まったのよ。」
「そうか、奥様だな。俺も祭りの手伝いするよ。だから、リリーも俺の仕事を手伝え!」
「えぇ、分ったわ。でも、あの馬は元気そうよ。二人の話が理解できるのね。」
馬二頭は空の荷馬車を引いて走り出していた。
「行先は港だ。俺も走って行くか。」
港には、マルボルクから五千袋のライ麦が、小舟を使って輸入して野積みされている。野ネズミも多数いたようで袋に穴が空いている。
「ま、これくらいはいいか! 袋に詰めなおしておけばいいや。」
昼過ぎにはボブが到着した。村人の総出で荷下ろしと積み込みを夕方までに終えた。夜には、リリーの魔法で農具は倉庫へ搬入する。マルボルクへの販売も出来るから先が楽しみだった。
「明日にでも、領主代行のエルブロさんに会ってくるか。」
「そうね。でも、ここに残るライ麦はどうするのよ。今晩も野ネズミに食べられるわよ。」
「ソフィアに寝ないで番をしてもらうかな。」
「そう、お姉さまに殺されますわよ。いいかしら?」
「そうだな、捕まえて夏祭りの焼き肉にするよ。」
「ネズミを?」
「バコ~~ン!」
オレグは久しぶりに、リリーの一撃を受けてしまった。船は明日の早朝に出航する。
「おう、ボブ、今晩泊めてくれ。これを飲もうや!」
「おう、兄ちゃん。歓迎するぜ!」
大変忙しい日が十日間続く。
*)建築の派遣、 イェジィ、ジグムント
豚小屋の建設も済んだ。細かいところは酪農のレオン、マルチンが完成させた。次なる仕事は、長屋の間仕切り等の建設だ。建て着けの物置も必要だ。薪は屋外の積み上げでいい。
暫くして、イェジィと石工のシモンが喧嘩を始めた。シモンが作った暖炉の回りのレンガを剥いだのが原因だった。それくらいは良かった。だが、暖炉の横壁には防災上の不燃材=レンガを使用しなければならない。
建築のイェジィが勝手に木材で建設していたのを、石工のシモンが後で気づいのだ。
「おう、ここはレンガで作らないと、火事になるぜ。」
「何をいうか、これだけ離れていれば木材で十分だ。俺の家では同じ距離だぜ。」
「バカを言うな! この土地は松が薪になるんだ。火力が強いから、絶対にレンガだぜ!」
「松でも白樺でも同じ薪だ。なぜだ。」
「おう、ここを見てみろ。お前さんの家の暖炉とは違うだろ。」
石工のシモンが指示した所は、薪が燃えて一番熱くなる所だった。イェジィは二十分ほど眺めていた。よく見るとレンガが二重に積まれているのが、かまどに頭を突っ込んでみて初めて気が付いた。
「ああ、そうなんだ。ワシが悪かった。ここはレンガで作ってくれ。一軒が燃えれば十軒が燃えちまうからな。これは長屋も善し悪しだな。」
この話を聞いたオレグは、
「すまないな。ど素人の考えだ。なにせ金がないからどこもかしこも、節約の手抜きだ。どっかのアパートと同じだ。ほんと、すまないな。」
ここでもオレグは謝っていた。その後は順調に防火壁が出来上がった。
が、でき上がる訳はないのだ。板がもう無くなってしまった。
長屋の百三十軒分の資材にはほど遠かった。道半ばで終わる。
「オレグの旦那。あっしに板材の製造もさせるのでっか?」
「おう、頑張ってくれ。あ、いや、この俺が作るよ。あんたはこのまま建設に従事してくれ。」
オレグは苦しい時の何とかで、またリリーに縋り付いた。拒否されたオレグは寝ずに水車小屋で板材の製造に携わった。理由は簡単な事だ。昼は鍛冶と家具の二人が使用する。だから、オレグは寝ずにネズミの番を兼ねて板材を製造をした。
「ご苦労さまです、オレグ! 後は任せて!」
リリーは乱雑な板を綺麗な建設材へ仕上げた。長屋が順次完成した。まだ、暖炉やテーブルが無い箱ものの家だが、直ぐにでも使用できる。
*)仲のいいグラマリナとソフィアとリリー
「オレグさん、ソフィアさんはどちらに?」
「あぁ、エリアスさま。多分、村の南の方にいるかと思います。ソフィアに何の用でしょうか。」
「オレグさん、ご主人さまは奥様を探してお出でです。」
「ああ、そうですね、今も一緒に村を回っていますよ。呼んできますね。」
「あ、いや。見かけたら早く帰るように言ってくれないか。」
「はい、承知いたしました。」
エリアスとデーヴィッドが離れていったら、オレグはリリーを呼んだ。
「リリー、ちょっと来てくれ。」
「きゃーっ!」
リリーは空から降ってきた。
「どうしたんだい。空を飛んでいたのかい?」
「えへへ、失敗しちゃった。実はね、館の見張り台の天辺で村を見ていたの。つい、ここが高い事を失念して跳んで来たからね。」
「そうか、高い所からは高い所へにしか移動できないんだ。」
「そうね、今後は気を付けるわ。でも、少し降りた所からだったから良かったわ。」
「そしたらなにかい? グラマリナさまも一緒だったのだね。」
「ええ、そうよ。何の用件かしら。」
「エリアスさんがグラマリナさまを探しているんだよ。また戻って伝えてくれよ。」
「分ったわ。戻って伝えるね!」
夕方になり家に二人が帰ってきた。
「お前らはいつも一緒で仲がいいね。」
「そうよ、一緒だと気がやすまるもの。」
グラマリナ、あんたは誰の生まれ変わりだい、??




