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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第32部 酪農の派遣とブドウの樹 ライ麦の輸出 第三便

ウィスト家の領主、ピアスタ。 ピアスタの従者、バルトシュ。

デンボウスキー家の家族。マルボルクの領主代行のエルブロ。 長男のユゼフ

妻のベマ。 執事は、ギュンター・グラス。


 1242年5月30日 ポーランド・トチェフ


*)ライ麦の輸出 第三便


 ボブはここ最近忙しいので、いつもぶつぶつと独り言を言っている。だが、今日はとても機嫌がいいのだ。なにも独り言を言わない。


「どうしたんだい、ボブ。良いことでもあったのかい。」

「ああ、あったぜ。息子をだっこ出来たんだ。女房が息子を連れて港まで来たんだよ。あ~、俺に似て可愛かったよ~」

「おう、それはおめでとうさん。息子のためにもしっかりと、稼げよ!」


 オレグは働けとは言わずに、稼げよ、と言った。言葉を解釈すれば共に同意語になる。オレグは働け! と言えば、ボブの心象が悪くなるが、稼げよ! と言えば逆にボブの心象は良くなる。人間は言葉一つで変わる生き物だ。


「今回もマルボルクのライ麦を、三千袋だよ。頑張ってくれ。」

「おう、息子のために頑張るさ!」


 もう、ボブはオレグの手中にある。頑張ってくれも、働け、同意語だ。


 ライ麦の輸出の第三便も、マルボルクのライ麦から輸出する。全部で七便だ。まだ半分も済んではいない。マルボルク産の次はトチェフの分が、三千袋があるから、まだまだ時間がかかる。


 オレグは急いで納品したかった。


「なぁ、リリー。ゲートでライ麦を持っていってはくれないかな。な?」

「いやよ。第一にボブが怒るよね? ボブの仕事を取り上げてもいいのかしら?」

「そうだよな。怒ってゴットランド島に帰るかもしれないな。」


 ボブと代わってぶつぶつ言うオレグだった。リリーはそんなオレグに向かって。


「オレグ! 今からマクシムさんの所へ行きませんか?」


「なぜだい。金は振り込み依頼をしているから、行く必要は無いよ。」

「いいえ、ありますわよ。・・・ねぇ? お姉さまもそう思いませんか?」

「オレグはバカだから、気が付かないのよ。もっと利口かと思っていたんだけどね。とても残念だわ。」


 今度はソフィアまで、オレグをバカにしだした。それでも二人の言いたい事に気が付かない。


「もう、金貨一枚でいい事を教えてあげるわ。どお? とてもいい事よ?」


 ここまで言われてもオレグは気が付かない。マクシムの船は一万二千袋が積載できるという大きい船が有ることに。


「おう、残念だな。俺も考えたぜ。リリー、今からヴィスビューまで頼む!」

「はい、金貨一枚頂戴!」

「いいよ、渡すよ。ソフィアも行こうぜ。」

「私にも金貨1枚を頂戴。リリーとお買いものに行きたいですわ。」


 オレグは二人に金貨を一枚ずつ渡した。いざ! ヴィスビュー!! オレグはリリーのゲートで酔う事はもうなくなった。



「マクシムさんは、今はどちらに?」


 応対に出た新人の女史は、


「たぶん、ハンザ商館の窓口でしょうか。1階で見かけませんでしたか?」

「気が付かなかったよ。すまんが、待たせてもらうよ。」

「マクシムさんは、忙しいのかい?」

「ええ、そのようですわ。なんでも、東の方で戦争が始まりましたので、物流が悪くなって四苦八苦されているようです。」

「ほう、そうかい。」


 差し出されてお茶を飲んで待つこと三十分。不機嫌な顔をしてマクシムが部屋に入ってきた。


「マクシムさん、お邪魔してますぜ。」

「わわ! なんだ、あんたか。驚かさないでくれ。忙しいんだ。用件は短くに頼むよ。あ、金なら振り込んでいたさ。口座に入っていただろう?」

「はい、ありがとうございます。マクシムさん、今日はライ麦の船便の事で相談に来ました。」

「まだ荷物が足りないから、早く輸送してくれないか。次はいつ入港するの?」

「ええ、二日後になるでしょうか。昨日トチェフを出ました。」

「そうか、時間がかかるから適わんよ。」


 マクシムは、まだ機嫌が悪いままだ。理由を尋ねて爆弾を踏む訳にはいかない。


「ところで、マクシムさんの船は一気に12,000袋が積載できるという事ですが、ご自慢の船はどのようにされていますか?」

「おう、それな。空船のままで港に係留中だ。あんたの荷物が遅いのが悪いのだよ。」


 オレグはにんまりとして、


「でしたら、船をグダニスクへ回して頂けませんか? トチェフとグダニスクたは二日で往復が出来ます。こちらもまだ、ライ麦を一万六千五百袋の在庫がございます。船を船をグダニスクへ回して頂けませんか頂けましたら、二日の五回、十日で満船にできます。どうでしょうか?」


「ふ~む、それはいいですな。そういたしましょうか。序にご注文の農機具も積載して、船をグダニスクへ回しますが、よろしいですか?」

「そうして頂けましたら私も助かります。今回の分は倉入れでお願いして次回の一万二千袋をグダニスクへ回しますので、よろしくお願いします。」


 マクシムの機嫌が良くなっていくのが分かった。マクシムは机から一枚の紙をオレグに渡した。


「今回の農機具の納品明細です。帰りに決済をお願いします。」

「ええ、喜んで!」


 オレグもマクシムもライ麦の納期が短くなって喜んだ。先ほど新人の女史から聞いた戦争の事は、一言も言わなかった。オレグは、次の商談に切り札として、持ち込む積りで帰路につく。


「おっと、リリーが居ないと帰れないか。リリー、出てきてくれ!」

「ほ~い。」


 人気の無い路地裏で待つオレグの目の前に、嬉しそうな二人が現れた。


「ずいぶんと機嫌が良さそうだな。商談が済んだから帰ろうか。」

「そうね、私たちの買い物も済んだわ。帰りましょう。」


 二人は手ぶらだった。リリーの境界の魔法でどこかに置いているのだろう。オレグは気にもかけない。


「オレグ、マクシムさんとはお話が出来たの?」

「ああ、上出来だ。ライ麦の納品が早まったよ。良かったぜ。」





*)酪農の派遣、レオン、マルチン


 豚小屋も荒いながらも完成している。酪農のレオンと農牧のアントニには養豚の仕事の前に、豚舎の補完作業を行ってもらう。どこもかしこも穴だらけで塞ぐのが大変だったらしい。



「オレグさん、もう少し板が有りませんか。たくさんとは申しませんので。」


「ああ、そうか、ボブの嫁さんがお産で居なかった。だから、板材の製造が出来なかったんだな。すまないね。」

「いいえ、旦那が早く売っちまったんでしょう?」

「おや! なぜそれを知っている?」

「いいえ、簡単な事ですぜ。あっしが半分は買ったようなんで、マクシムさんから教えてもらいましただ。」

「くそ~、マムシめ!」

「ああ、それもマクシムさんは言ってましたね。私を悪く言う時は、名前がマムシ

 になるよ、とね。」

「それも知っていたか、もう言えないな~。」

「旦那。悪口はいけませんぜ。物を高く売れなくなりますぜ。」

「?・・・、それもそうだな。ご忠告ありがとう。」


 広い放牧地に柵は完成している。豚舎も完成した。子豚を五十頭を購入する。赤い子豚をみて、オレグは金欠で青くなった。財布は黄色信号だ。


 子豚五十頭を買って豚舎が完成した。信号機も完成したようだ。常に黄色と赤が灯っていた。とにかく一か月間苦労して育てた。


一か月後に豚を六頭絞めて焼肉会を行った。エリアスは喜んだ。豚のふんは順次、農地にばら撒く。とてもいい肥料となった。


 問題があるのだ。


「オレグさん。このように餌が不足するのであれば、早めに肉にして頭数を減らしませんか? その方が飼育が楽になります。カブ(蕪)が大量に収穫できるまでの一年ほどの先ですので、ここは辛抱しましょう。」


 隣のマルボルクからは、大量のカブ(蕪)の供給は断られていた。自分ちの台所が優先なのは当然だろう。


 読者の方には、豚の飼育で成功できて農民は肉が食べられた、と書けばそれでいいのかもしれないが・・・。


 事実は、このようになる。


 事実、豚の飼育には大量の餌が必要だ。馬みたいに放牧すればいいものではない。イノシシ→イノブタ→ブタと、飼いならされてきた。この時代は、イノシシと同じように森に放していた。自然に大きくなる。人間は、肥育して大きくなった豚を捕獲して食べていたのだ。


 当時のヨーロッパは森が多く、自然の恵みが多かった。オオカミも人里のブタを襲うのは少なかったのだろうか。


 豚のえさは草ではない。カブ(蕪)をスライスして与える。他には人間の残飯野菜くずと果物、木の実などが餌となる。これらの餌を大量に確保する方が大変なのだ。豚は餌さえあれば勝手に大きくなるものだ。


 だが、ライ麦と採集したドングリの実、人間の残飯? これはありえない。隣の都市から購入したカブが餌となる。費用が高くついてオレグはここで躓く。


 豚さんを二十頭までに減らした。来年の種親として残さねばならない。また、二十頭は森に放している。これは先の食糧としてなのだ。


 早くカブ(蕪)が欲しい。


 酪農家のレオンとマルチンには、このカブ(蕪)の生産を押し付けた。毎日世話をするわけではないから、畑の除草くらいですむ。


 酪農家のレオンとマルチンには、少しばかりの園芸の知識があった。このような餌不足の事は、マルボルクで経験済みなのだろう。だから園芸の知識があるのか! と、オレグは思った。


 オレグはこの二人にブドウの樹の栽培を託した。


「なぁ、レオン。お姫様から頂いたブドウの樹を育ててくれないかい。」

「ええ、育てましょう。お国では時々ブドウの実を頂いたり、収穫を手伝ったりしましたから、多少は育て方も理解できます。」

「それはいいや。枯らしたら俺が姫様から〆られて干からびるから、よろしく頼むよ。」

「おお! それはいい。いや、大変だすね。」

「何か言わなかったか?」


「オレグさん。ブドウの樹には水が必要ですので、洗濯小屋の近くがいいですよ。あの辺りならば水路は引けますでしょう。」

「よし、大きく成長するまでには水路も作るよ。」


「ま~、3本のブドウの樹です、桶で水を運びます・・・・・・。」


 オレグは、3本のブドウの樹では心もとないので、苗木を格安で購入した。


「旦那。それは苗木ですか? それともブドウの実ですか?」

「これは、春植えにするブドウの樹だ!」

「そんな、無茶苦茶な~。」

「実から苗にして、何が悪いのだい?」



 オレグは次の作業を命じる。


「ブドウの樹には、蔓を這わせる柵が必要だろう?」

「そうですね。豚の世話の間に柵を作れと?」

「はっきり言えばそうだ。建設には向かない木々が多数あるから、よろしくな。」

「そんな、ご無体な~、オレグさま~」


「ブドウの樹は3本だろう?」


「いいえ、オレグさまには、ブドウの樹が300本に見えているようです。」

「お前もマルボルクでは苦労したようだな。どうだい? トチェフへ移住しないかい。ここは長閑のどかでいいだろう。」

「はい、オレグさまさえ居なければ、という条件が付きますぜ、旦那。」



「旦那。鼻の下が伸びていますぜ。カブ(蕪)の計算は済みましたか?」

「旦那はご存じないようですので、お教えいたします。」


「何を?」

「豚の餌のカブ(蕪)も、種の採取にすればいいでしょう!」

「わ~~~~、気が付かなかったよ。それ! いい。」

「それは蛇足的な意見ですぜ。もしかしたら、旦那はカブを食べていますね?」

「あ、いや、けっしてそのような事実は無いぞ!」



 レオンの次の解説は、


「はい、カブ(蕪)は年に二度作付が出来ます。今年は春植えが遅いので秋植えが出来ません。来年からは、春と秋に植えればどうなりますか?」


 オレグの目が輝きだした。伸びた鼻の下は元に戻り、眼光がより多くなった。


「おう、よく判ったぜ。今晩は一杯奢るよ。派遣の全員を集めてくれ。豚一頭も参加で頼む。」

「はい、喜んで~」


 豚一頭分のカブ(蕪)が、餌より種の採取へ回された。あれから数日後。村人にカブ(蕪)の種まきを頼んだ。


「おう、その農地は豚のふんを撒いた所だ。カブ(蕪)の植え付けは出来ないぜ! だから、来春のライ麦の畑にするよ。カブ(蕪)は再来年にしてくれ。」


「旦那! ここが一番肥料が効いている所ですぜ。人さまの口には入らないのならここが最高でさ!」

「?・・・・・、おう、そうだな。うん、ここに植えてくれ。」



*)ブドウの樹


 ブドウの樹は村の近くで用水を引ける場所に決まった。ブドウの実は八十%が水分だ。水をコントロールすることににより、甘い実が実るに違いない。


 水は洗濯で使った水だ。人の汗で? 肥料になるだろうか。この肥料にも家畜のふんが使われた。3年後からは収穫が出来たが、おやつ程度と少なかった。種から苗木を生産し、接ぎ木で株を増やしていった。たった三本のブドウの樹が百本になり、五百本にまで増えた。


 これも成功するかのように見えたのだ。収穫後の二年間は葡萄酒の製造に四苦八苦した。三年目からは寒波により、ブドウの実が凍結してしまう。自然災害が発生した。四年目も冷害でボツになる。


 トチェフ村の一番の特産品にしたい!!!!実現までの道は遠い。ガンバレ! オレグ! ファイトだ、オレグ。


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