第29部 オレグへの試験問題?
ウィスト家の領主、ピアスタ。 ピアスタの従者、バルトシュ。
デンボウスキー家の家族。マルボルクの領主代行のエルブロ。妻のベマ。
長男のユゼフ ユゼフの嫁・バーシア。
執事は、ギュンター・グラス。
1242年5月3日 ポーランド・トチェフ
*)リリー,ソフィアのチェンジリング作戦
オレグは、
「ソフィア、お前の綺麗なドレスをリリーに着せてくれないかい。どうしてもイヤな時は、リリー! お古で頼むな。」
二人は顔を突き合わせて睨み合う。オレグには嫌な予感がしてならない。
いよいよ挙式当日となった。リリー,ソフィアのチェンジ作戦を実行する。もちろん行き当たりバッタリの、当たって倒れろ! だ。
*)エリアスとグラマリナの挙式前
1240年頃はまだヨーロッパ全土にキリスト教が布教していない。キリスト教はユダヤ教から派生している。ユダヤ教の布教は手短にヨーロッパへもたらされた。東ようなの砂漠や山脈が無かったからだろうし、小国の繁栄が各地にあったために、安近短の布教を行った。まずは国王に取り入り、宗教を押し売り
したのだ。宗教とはとても言えない土着信仰だったため、国民を纏めるために導入された。(当たらずとも遠からず?)
お昼の少し前から挙式が行われる。挙式がキリスト教に則っていたかは不明。
村中の料理自慢の女が招集された。ポーランドは、一から作る家庭料理が主だ。日本みたいないい加減な国ではない。挙式に招待されている員数は少ない。少ないのに女の招集は、もちろん村人のためである。領主が結婚するのだ、当然お祭りになる。
ウィスト家の領主のピアスタお嬢様と、ソフィアが招待された人物だろう。他は新婦の家族になる。エリアスは、自分の家族を呼んではいなかった。内々のとある事情による。はて? なんでだろう。
エルブロの家族は、エルブロと妻のベマ、それに長男のユゼフ ユゼフの嫁バーシアの四人。エリアスの家族は招待がないから、新郎の一人のみ。こうして書き出すと、総勢が八名になる。
エリアスの従者は、デーヴィッド。ウィスト家の領主の従者は、バルトシュ。エルブロの執事のギュンターだ。それに両家で八名のメイドがついてきている。と、エルザになる。オレグとソフィアは事情により外れる。
披露宴の食材は、ギュンターさんにマルボルクの街で手配して頂いた。オレグとソフィアとリリーの三人で、ゲートを使いせっせと運んだのだ。トチェフの村からは氷室に保管している肉が、たくさん取り出された。館の人数分だけでなく、トチェフ中の農民にも家庭へ配給された。
館の内と外での宴会となった。昼から夕方まで続く予定である。
オレグはエルザに声をかけた。
「ギュンターさんには、食材の購入代金をお支払いしなければなりませんので、見かけましたら教えて下さい。」
「はい、承知いたしました。」
こういう仕事は、デーヴィッドの役だろうが、エリアスの人員は少ないのでオレグが世話を焼いている。
ギュンターさんは暑い季節ではないのに、額に汗して世話焼きをしていた。
「ギュンターさん、食材の代金の金貨・8枚です。かなりお安くして頂きました。ありがとうございます。」
「いいえ、オレグさまこそ大変でしたでしょうか。最後までお願いします。」
オレグは、ウィスト家の領主、ピアスタお嬢様に見つからないように行動した。ソフィアやリリーも同じである。結構緊張しまくった。
「エリアスさま、ご結婚おめでとうございます。」
エリアスの館ばかりではなく、村中で挨拶の代わりに言葉が交された。
「さ、エリアスさま。朝ですよ、起きてください。」
メイドのエルザが主人のエリアスを起こした。昨晩は緊張して眠れなかったのか、起きようとはしなかった。エルザは助走をつけてエリアスに飛び掛かる。
エリアスはベッドから転がり落ちて、難を逃れる。
「デーヴィッド、何をするんだい。俺を殺す気か。」
「いいえ、エリアスさま。凶暴なエルザからお守りしただけです。これ以上の良策はございませんでした。申し訳ありません。」
エリアスを目がけて突進したエルザは、ベッドの横で顔から着地していた。
デーヴィッドは、
「エリアスさま、ご結婚おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。」
エリアスは挨拶だけで他には何も言わなかった。
「エリアスさま、朝食ですよ。」
「エリアスさま、お着替えですよ。」
「エリアスさま、お姫様が到着されましたよ。」
「エリアスさま、来賓のピアスタお嬢様ですよ。」
「エリアスさま、エルブロさまがご挨拶にみえましたよ。」
「エリアスさま、さ、ご挨拶をして下さい。」
「エリアスさま、綺麗な花嫁さまですよ。」
「エリアスさま、このバラの花束をお嫁様に渡して下さい。」
「エリアスさま、服をお直しますね。」
「エリアスさま、」「エリアスさま、」「エリアスさま、」
「え~い、うるさ~い!?」
*)エリアスとグラマリナの挙式
オレグとソフィアは式に参加しない、リリーだけである。
エリアスとグラマリナの服は超のつく高級品ではないようだった。
派手さはないが、落ち着いた白い色だった。グラマリナは上質な麻製で袖と襟もとと裾に刺繍を施したワンピースだ。ドレスは、裾を長く床に引きずる服で、両腕からも床に着くほど長く垂らしている。ぶかぶかのような衣服だ。エリアスは、騎士の服装であった。上着のマントルはカワウソの毛皮で作られている。
グラマリナは、きれいなピンクのバラの花を持っている、これはリリーが丹精を込めて育てたバラだ。
「グラマリナさま、とてもお綺麗ですわ!」
会場の入口からは感嘆の言葉が囁かれる。会場と書いても、館の応接間だ。この村にはキリスト教の教会は無いのだ。
静かに挙式が行われた。
これからは披露宴になる。
「あら? ソフィアさまは姉妹と聞き及んでおりましたが、妹さんは参加されないのですか?」
「はい、妹のリリーは私の夫と共に裏方奉公に努めております。ですので、欠席になりました。申し訳ありません。」
「いえ、そのような事を言われないでください。たぶん、私が急に参加しましたので、お忙しくなられたのでしょう。こちらこそすみませんでした。」
「本当に、ソフィアさまは亡くなられたお母様にそっくりですわ。もしかして、貴女はお母様の姉妹の娘さんとか?」
「そのような事は、ありえませんわ。ピアスタさまの方がご存知でしょう?」
「ええ、確かに。これからもよろしくお願いしますね。」
「はい、ピアスタさま。」
身内だけであるから、騒がしいということはない。
領主のピアスタは葡萄酒を持参していた。
*)カブ(蕪)とブドウの樹
挙式が終わり、オレグは領主のピアスタに呼ばれた。
「ピアスタさま。私はソフィアの夫でオレグといいます。今日はお招きをありがとうございます。」
ピアスタとリリーは、終始にこやかであった。この二人はテーブルでは並んで座っている。
「この度は式の準備でご苦労されましたでしょう。ここでは気を抜いてお話しください。」
「はい、承知いたしました。」
ソフィアことリリーが願望を言う。
「オレグ。挙式はとても素晴らしかったわ。だから、今からでもいいのよ?」
「いや、俺はもう十分だ。式は無くていいよ。」
「まぁ! オレグ、そのような事ではソフィアさんが可哀そうですわ。今からでもお二人の式をお挙げ下さい。神父さまも今ならタダですから。」
神父とは誰だろう呼んではいないはずだが?
ピアスタは、少し商人の心得があるのだろう。「タダ」という言葉が出た。お茶のセットを運んできたギュンターとエルザ。
ピアスタはギュンターに、バルトシュとエルブロと長男のユゼフをここに来るように頼んだ。
教会の黒い服を着たギュンターが部屋の入口の横のテーブルに居た。
「ギュンター、バルトシュとエルブロとユゼフをここに来るよう言って頂戴。」
「はい、お嬢様。すぐに呼んでまいります。」
「大きい荷物がありますので、ギュンターも運んで頂戴ね!」
ギュンターは、はい、と言いながら退席した。エルザは給仕のためにこの部屋の後方で待機している。
「ピアスタさま、私からはデーヴィッドを呼んでもよろしいでしょうか。」
「ええ、そうですわね、許可いたします。」
「ありがとうございます。・・・・・エルザ、旦那を呼んできてくれないかい。」
リリーはお客さまが増えるので、お茶の準備も兼ねて退席した。間もなく呼ばれた三人が入ってきて、遅れてデーヴィッドが来た。
「オレグ。紹介しますわ、従者のバルトシュです。」
「バルトシュは私が信頼をしている従者ですの。街の政と商業全般を見させております。まぁ、私の右腕でしょうか。」
「初めまして、オレグさま。今後ともよろしくお願いします。」
「オレグでございます、こちらこそよろしくお願いします。」
ギュンターとエルザが入ってきた。ギュンターは重そうな箱を。エルザは三本の苗木を持ってきた。ギュンターはいつもの執事の服に戻っている。
「オレグさま、こちらがピアスタさまからの贈り物でございます。もう一点ございますから、すぐにお持ちします。」
ギュンターの箱にはカブ(蕪)が、エルザはブドウの樹だった。次にギュンターが持ってきたのは、ブドウの実を潰す破砕機だった。見ても分らないが、いろいろ説明されたら理解できた。
バルトシュからブドウの破砕機の説明を受け始めたら、リリーがお茶を持って現れた。
ピアスタは、
「オレグ、私はソフィアと村を見て回ります。後はバルトシュから説明を受けて下さい。・・・バルトシュ、後はお願いしましたよ。」
「はい、かしこまりました。」
ピアスタとリリーは散歩に行った。ソフィアとリリーはまだ入れ替わったままだ。オレグはこころの中で、お姫さま、ウソをついて申し訳ありません。願わくは、ばれませんように! と思っている。
エルブロと長男のユゼフは、この機械やカブ(蕪)、ブドウは知っている。デーヴィッドはこの二人から、三圃農場の導入の利点を教わっていた。
ユゼフはデーヴィッドに三圃農場について説明をする。
「ライ麦は、痩せ地でも収穫ができますが、連作ですと土地がどんどん痩せてしまいます。ですのでライ麦の収穫は年々減っていきます。一つの農地では、輪番に二つの作物を間隔をあけて栽培します。一年目はライ麦、二年目はこのカブを、三年目は休耕にして、牧草を植えて豚か羊を飼えばいいでしょう。こうする事で土地が痩せることなく、収穫を落とさずにできます。ぜひとも実行されてください。」
「はい分りました。三圃農場の導入はオレグさまも力説されてありますので来年から始めます。」
デーヴィッドはエルブロに、オレグの意見、願い事を述べる。
「それと、オレグからの依頼がありますが、本人からでなくても、よろしいでしょうか。」
「ええ、構いません、なんでしょう。」
「たくさんありますので、恐縮です。」
デーヴィッドは、オレグから聞いていた事を話した。内容は技術指導だ。
鍛冶屋の派遣、家具職人の派遣、石工の派遣、酪農家の派遣、土木工学の派遣建築の派遣、放牧の派遣、実に七件と欲張りだった。
「この七件の全部はこちらもまだ受け入れる準備ができておりません。先の中から人材の派遣ができますならば、お願いします。」
「ユゼフ、どうだい。すぐに出来るものがあるかい。」
「そうですね、たぶん、全部出来ますよ。お父さん。」
「おお、本当ですか!」
「はい、一流の技師は不可能ですが、弟子や弟子の独立、弟子の独立の試験テストとして、派遣ができます。」
「すると、マルボルクの利点はあるのかい。」
「独立に向けた人材育成でしょうか。そのまま希望があれば、移住させてもいいでしょう。もちろん派遣費と移住の人員あたり、金貨十五枚で交換とかですね。」
オレグが話に入ってきた、持論があるらしい。
「はい、利点としては、二つの都市で分担して相合に都市を大きくできる事です。他に、職人の活性化が望めますし、地の利と併せて技術開発も出来ます。」
「それはどのような?」
「トチェフには、横に大きいビスワ川がありますので、船での輸送ができます。水車小屋の動力によるライ麦粉の生産ができます。」
デーヴィッドはエルブロに、ものは試しと話を押し込む。
「私からは、豚の購入と飼育はすぐにでも始まられます。長屋の建設も途中で止まっておりますが、建築と家具、それにカマドのレンガ加工と、色々欲しいです。技術料はお支払いいたしますので、試しにお願いします。」
エルブロとユゼフは二人で相談を始める。
「お父さん、これは乗るべきだと思います。ほぼ何も無しで金貨が入ります。職人の食事や家はただですし、豚の販売ができます。金物と石材の販売も出来ますね。」
「そうか、マルボルクにも利益があるのだな。」
短い時間で七件が決定された。
「オレグさん、七件のご希望はお受けいたします。つきましては職人の住居と食費はエリアスさま持ちで、派遣費用としては技術者一人につき、金貨十枚でどうでしょうか。」
「オレグさん、オレグさん。ちょっとばかしお金を貸して頂けませんか?」
デーヴィッドはオレグに金の融通を頼み込む。
「えぇ、今はエリアスさまがいらっしゃらないですし、ここで決定する必要がありますね。この場は私で費用を持つ形で纏めましょうか。後はエリアスさまと別途協議にいたします。」
オレグは、バルトシュから葡萄酒の製造方法を教えてもらった。この技術の代価は大きい。向こう十年間の売り上げの二十%で金額が計算されて、支払う事になった。当面は無料だ。収穫までは三年はかかるから、五年目からは金額が動くだろう。ビンの購入代金は計算の除外でお願いした。
カブ(蕪)やワインは北ヨーロッパでは殆ど流通していない。大きい勝算が見てとれそうだった。
マルボルクからは、一度ではなく、必要に応じて分散して派遣と物資の販売も確約された。それもこれも、ピアスタさまのおかげだ。いや、ソフィアかもしれない。
これは、ピアスタさまのオレグに対する試験問題だった。数年後にピアスタは失敗した事に気づくのだが。
ブドウの樹は、オレグへの第一の試験問題だった。この北の国ではブドウの栽培に適さない。温暖な南の土地でしか商業可能な栽培は出来なかったのだ。
ピアスタは、ブドウ酒を飲みたくて? いや、父に飲ませたかったのだろう、領地でブドウの栽培を始めたのだ。だが、寒くて完全に失敗している。エルブロとユゼフには、この事実は知らない。だから、バルトシュにはオレグとのみ話をする様にと、きつく言っている。
こんな事とは知らずにオレグは喜んだ。葡萄酒の製造は、オレグへの難問となった。これが第二の試験問題だった。
三圃農業について、オレグは推奨しているが、まだ、転生して間もないから単なる知識でしかない。これも難なくクリアした。カブ(蕪)は副産物として、ポーランドの食卓に上る。ポーランドは野菜と肉の煮込み料理が有名だ。それもこれも冬が寒いせいだろうか。家庭料理が多いので街のレストランや食堂がとても少ないお国柄となっている。
豚の飼育、肥育にも成功する。オレグの欠点は、器用貧乏だ。あれもこれもと、抱え込んでしまう性格だ。ま、身体と頭を鍛えるのでちょうど良い。
ピアスタさまとエルブロとユゼフ、それにバルトシュは館に二日間宿泊・滞在した。他の付き人は、未完成の長屋にそれぞれ宿泊させた。長屋が在ったのはとても良かった。オレグは、このような使われ方を予想もしていない。
肝心なソフィアは、ピアスタさまと会見していない。リリーが服をとっかえひっかえして、ソフィアとリリーの二役を演じた。冷や汗ものだったが、何とか最後までごまかせたのだった。
ピアスタは、困惑してしまった。
「あら? ソフィアさん。先ほどとお話が違いましてよ。どうかなさいましたの?」
「あれは、姉ですわ。」
「ソフィアさん。また同じ事を言われますのね!」
「それも、姉が言ったのですわ!」
「?・・・・・・? 返事が変だわ?」
そう、リリーは故意に間違えて二役の演技をこなしていた。最後の二言は墓穴となったようだが? 最後の方でリリーは混乱してしまった。
挙式当日のエリアスとグラマリナは、村を回ってお嫁さんの披露に行っていた。行く先々で歓迎される。酔いが回ったエリアスは、
「おう、面倒だ、館に集まれ!」
翌日は、エリアスとグラマリナを交えた、二国間の通商の協議を行う。一気にトチェフが発展するかのような、錯覚を感じた。三~五年で一応の結果が出るのである。
ピアスタお嬢様は、オレグのことをどこまで調べたのだろうか。疑問である。また、ブドウの樹はどこまでが本気なのかは、まだ分らない。もしかしたら、お忍びでトチェフ村を探索していたかもしれなかった。秋の挙式が春に延期になっている。ここがミソなのかも知れないのだ。
その後のオレグの行動も、逐一報告されているかも? いや、派遣の人材は密命を受けているに違いなかった。お人よしのオレグは気づくだろうか。
トチェフ村の領主、エリアスと妻のグラマリナ。従者のデーヴィッド。
メイドのエルザ。オレグ、ソフィア、リリー。船乗りのボブ。




