第255部 教会への寄付
1300年1月5日 バルト海・ゴットランド島
*)俺の嫁は最高……だが神父は最低だった
寒くてもたくさんの雪は降らない東ヨーロッパ。流石に山沿いは多いのだが、ほぼ平坦なヨーロッパのポーランドでは山は海から遠いのだ。主に西風が雪を飛ばしてくれている。海も普通は……凍らない、普通は、だ。
もうすぐ暮れようとしているグダニスクの街。酔っ払いの二人に閉口するステラは独り宿屋に逃げ込んでいた。俺らはオートモードで船に帰っていく途中であっさりと、ご用!? となる。
「ご主人さま、このお店……べっぴんさんが多いのですよ!」
「イタッ!」
「ケケケ……。」
ここはメイドの姿をした女の子が客引きをしていたらしいのだ。泥酔している俺の懐は意識が無いらしい。財布から銀貨が零れ落ちていた。俺の行く末を案じて? ゾフィは俺の足を踏んで箴言してくれたというのに、俺の下半身には理性が宿っていないのだから、他人様が何を言おうとしても聞く耳はない。
「旦那! 下半身にも意識がありませんのね!?」
「あぁ、あぁぁ・・・??? お前、チャイニーズか?」
「いいえ~モンゴリアですわ!」
「おいゾフィ……?」
「お連れの従者さまは、ほら、逆さに吊されて懐から銀貨を振り落とされているところです。も~出るわ……出るわで、今宵は大儲けですわ。」
「……ゾフィ、おい、しっかり境界の門に鍵をかけろ!」
「இஇஇ……。」
「でんでん虫かよ……、」
俺とゾフィはメイドパブの玄関から入っていたはず、それがどうも店内を通っただけで無一文にされて、そのまま勝手口を通り港に放り出されたようだ。一月は新年の寒い夜を泥酔して迎えていた。海から引き上げた、磯臭い銀貨が無くなってしまう。
俺のご先祖さまに申し訳ない? と思うのは酔いが醒めてからである。酔っ払いは気は大きくなるので、カモと言われる所縁でもある。貧乏人は酒を飲むべからず……だ。
「くそ~!……今宵はウルフムーンだというのに、月は俺を見放したのか!」
「ツキが無いのはオレグだけだろうが、風邪を引くなよ俺にうつすな!」
「どうして人狼の巫女が居ないのだ、俺の守護者は何処だ!」
「……アホ!」
「ここはラバハキア……か! そう言えばニュースに出ていたな~……இ……。」
ラバハキア……コロナの影響が去って客引きが横行しているというテレビのニュースなのだが、俺と寸分も狂わない下半身が勝手に歩いていくというから同情はしなくてもいい、されなくてもいい。
俺はランネバラをしっかりとワイヤーロープで包んでいたはず。気づかなかったがその女に銀貨全てを取られていた。それも利息付きで……。
酔っ払いはいつの時代でも世話になるのだ。介抱泥棒と悪質客引きが居るから呉々もご用心めされよ……世の男ども! 酔いが覚めたら直ぐに財布を確認する事。往々にして中身が無くなっているものだ。終バス、終電を逃せば……もう……帰れない。翌日は大きな低気圧が家の中に発生する。家にも入れて……貰えないのだ。
「靴底に紙幣を隠せ……!」
翌朝には二人ともキッチリとステラの皮肉で起こされていた。海水を掛けられないだけでも御の字だったか。それから怒り心頭で昨夜のパブに行ったが、主人は知らないよ関係ないよと言う。逆に入店料を請求される有り様だった。
「やはりお母様でしたのね。」
「あのババァ……確かにキツく縛っていたんだがな~。」
「朝抜き昼抜きですわ、さぁ早く教会へ行きますわよ。お金なら私が持っています。」
「あぁすまないな~!……??」
俺が教会へ着いて寄付を申し出てステラが銀貨を出す。その銀貨にどことなく磯の臭いがしたのは……気のせいかな? 俺が海底から引き上げた銀貨は磨いていない……。それに銀貨は長く放置すると黒く錆びるものだ。ステラが出したあの銀貨も黒くしている。家庭円満の為にここは気にしないことにしようか。
「おやおや随分な銀貨でございますな、いやはやなんとも。」
この神父、銀貨の勘定は完璧らしい。袋を揺すって銀貨の擦れる音を聞いては枚数を把握できるようだ。銀貨自体は袋を軽く開けて覗いただけだとういうのに。もしかして袋の底は鉄か石かもしれないというのにだ。
「神父さん、これで身請できる女性をお願いします。銀貨は黒いが女は白いモノで頼むぞ。」
「あら……ご存じないのですね。昔と違い女は子を産ませる為に地方から引っ張りだこなのです。ですので在庫は、ほれ、あの幼子だけです。」
俺がライ麦を西側に送り過ぎた為に、西側の人口が爆発的に増えだしていたのだ。だからここ東ヨーロッパではその西側の人口のパンの製造強化に繋がり、農村も入居者を増やしていた。女は人口を増やすものだから特に需要が多かった。
この頃はかのスケベの末裔は……とある病気が蔓延……パンでミックスパイを焼く程に手を焼いていたのだ。……パンデミック中国では半数が死に逝く……。
だから西側を攻めることは出来なくなっている。もっか、地中海方面への貿易のみに手を出していた。これらの貿易品に混じって蚤が病原菌を運んでいた。
これらの貿易品はジンギス・カンが侵攻していったルートに沿って流通路が作られているから、黒海方面からイタリア、フランスへとあのオゾマシイ黒死病が伝播していく。オレグが居るポーランド等の北部へはそれなりに濾過? されれたのだろうか、罹患率は低下していく。それだけ被害は少なくパンデミックも遅く発生する。
そんなこんなで南からの難民はもう北の国へは流れてこなくなっていた。つまりは農奴が不足していくのだ。
「今では産めや増やせや……ですよ、オレグさま、」
「もう教会に置いていかれる子供が居ないのですね?」
「はい、やや小さい子供ですら……右から左へと……。」
この神父さんはそう言いながら、俺が渡した銀貨の入った袋をジャラジャラと鳴らしてみせる。催促だろうか、でも裏事情を知ってしまったからには寄付はできんばい!
「つまりはそういう事ですね?(いつもいつも儲けすぎだろう、ジジィ)」
「はい、今日はご寄付をありがとうございます。」
狸神父は俺の意図を早々と読んでいて、渡せる女が居ない事を最後まで臭わさず狡猾に、話を進めていた。俺は二日酔いの頭で臨んでいたのですっかり騙されていた。
「グダニスクの街は大きくなりました。お子さんが欲しいのでしたらほれ、そこにステラさまがいらっしゃるではございませんか。」
「それがさ、昨晩種付けしたばかりでな、仕事に使える女が至急欲しかっただけで、
いや、もういい。帰る。」
「神のご加護がアランことを……。(またお出で下さい。)」
「ケッ、あの神父、俺がアラン方向の人間だと悟っていたのか!」
「そうでしょうか……。」
「あれも、相当な腹黒だぜ!」
俺はグチグチと口を動かして船に戻っていった。
だから……現実には、否! なのである。俺は転生したばかりだから世の移り変わり
が判っていなかった。
これから暫くはヨーロッパの人口は増えていく。
「そう言えばステラ、どうして俺らが港の路地で寝ているのを知ったんだい?」
「あら、たまたまですわ。」
「へ~あの路地で……偶々(たまたま)だったとは思えね~。俺、ステラに銀貨を預けていたとは、知らなかったぞ?」
「あら……何の事でしょうか? 存じませんことよ。」
「ケケケッ……。」
「ゾフィ、造船ギルドは何処だ!」
「ほれ、あそこ……。」
「あぁ、あそこね。」
俺は船の改造を頼んで船に戻った。仕事は七日からだというから暇なんだろうか。俺としたら嬉しいのだが、船から追い出されるので宿屋に宿泊するのに金が掛かるし、飲み代も半端なく……ゾフィは容赦なく飲み食いしやがる。
「俺の、今度の女房はつつしまやかでいいな、」
「オレグ、慎ましやかだぜ、また間違っている。」
「そうだな、この女、魔女だけあって、餌代が掛かりそうだ。」
「そういう意味ならば、両方間違っていると、言うのだろうぜ。」
「んまぁ、私、航海で痩せましたのよ。メイドが買えないのでしたら、もう五人分を注文して下さい。」
「ひと月はこの宿屋で暮らすから、ドラム缶にだけはなるなよ。可愛い奥様!」
「はい、オレグさま。丸太で済ませます。」
「?……。」
「オレグ、嫁さんは寝て暮らすそうだぜ。」
「あぁ、なるほど、寝ているだけか。ゾフィ、明日から女を捜しにいくぞ。」
「キ~~~~!!!! 私はどうなるのよ。」
「寝ておれ、俺は魔女を探しに行ってくる。」
「あ……メイドね、うん、お願いね。」
とりあえず、ひと月は動けないんだ。街の女は普通種のみだと考えたがいいだろうか。農村部に行って魔女を探すことにした。
これからヨーロッパの人口は増えていく……現実には、否! この1300年代は悲惨なヨーロッパの幕開けででもあった。俺はこの激動のヨーロッパで第三の生を受けたのだ。
お~やだやだ俺は平和な人生を送りたい……。火刑の女を奪うなんて……あり得ないだろうか。これこそ命がけで臨まないといけない。
俺は農村部へ魔女を探す旅に出た。




