スリング
「ダンジョン冒険者の食事はもっと酷いぞ(笑)」
豪快に笑いながらトラインが言う。
午後の荷馬車の同乗者をソフィアから交代したのだ。
トラインは護衛団の前衛らしい大きな体を、荷馬車の荷台に押し込めている。
「☓☓さん、場所代わりましょうか?こっちのが広いかも」
運転席の横の席と代わろうかと提案するが、オレインが嫌そうに目配せをしてくる。
「大丈夫だ(笑)後ろを見てないと、後方警戒の意味が無いだろ?」
トラインは機嫌良く笑って答える。
ソフィアと交代の時に散々に昼飯の自慢をされ、向こうでは昼飯の量が足りなかったと嘆くトラインに、オヤツ代わりに『乾燥』『熟成』させたナッツをお裾分けしたのだ。
「コレも美味いよな」
「村ではいつも食料が足りなかったんで、森で樹の実を採取してたんですよ」
(街に入ったら、次からはこんなのも買うしか無いんだろうか?)
自分用なので量を用意していた訳では無いので、何か新しい物が欲しいのだが、旅の道程では自由に森に入るなんて出来ない。
心の中で集団行動の安全と自由さを天秤に掛けながら馬車の車列を眺める。
「アオ、あれは?届くか?」
オレインの指し示す指先を見ると、道上をやや低く飛ぶ鳥の群れが見える。
「、、、」
俺は黙って助手席で立ち上がり、脇に抱えていたY字の長棒を立てる。
トラインが怪訝そうな顔で見上げている。
Y字の棒に張った長い紐を引き絞り、狙いを定める。
『弾性』が付与されたスリング紐、石の弾には『必中』『痺』が刻まれている。
付与まみれにされた特殊な弾丸が放たれ、空気を切り裂き、物凄い勢いで鳥を狙い撃つ。
石が命中した一羽が道の脇に落下し、隊商の間から声が上がる。
「当たった(笑)」
「今晩の晩飯だな(笑)」
俺がオレインと笑い合うのを、トラインは怪訝そうな顔で見ていた。
※※
「『出水』『軽量化』に『乾燥』、後なんだか分からない味を良くする技に、サイコロの操作、、で、とんでも無い威力のスリングか、、なんだそりゃ?」
報告を受けたディーダが困ったように考え込む。
「かなり飯に執着心があるのかもな。街の食事事情の話題に食いついて来てた」
「村での食事の悪さも話してたね。上の兄達にため込んでいた食料を盗まれたのを今でも恨んでるとか」
ソフィアとトラインが補足する。
「スリングを見せて貰ったが、撚っただけの紐に見えてあり得ないくらい、反発してたな」
斥候を務めるニッダが話す、飛び道具はニッダの得意分野だ。
「森で狩った動物の健で一度作ったそうだが、紐で長さを取った方が威力が増したらしい」
「同乗してる時に防具に『軽量化』を施して貰ったが、便利だな。ダンジョン探索では必須の付与だが」
トラインが肩を回しながら言う。
「普通に『温』や『冷』も使えるしね?細かい魔術の操作も上手いし、いくつ魔術を持っているんだか、、」
トラインとソフィアが、アオの能力を測るように話し合う。
「付与魔術を隠さないのが若さなのか、田舎出だからなのか分からんが、警戒心が無いんだな。・・お前ら、あんまりしつこく聞きすぎるなよ?変に警戒されるとややこしいゾ?」
ディーダがそう言うと、護衛の団の面々は黙って頷いた。




