固形コンソメ
昼になり隊商が大休憩を取るために停止をする。
俺はいつも通りに、桶に水を『出水』し、簡易コンロに『着火』する。
オレインの荷馬車に同乗して後方の警戒をしていたソフィアに、『温』を付与した白湯のカップを差し出そうとすると、「こっちに入れてくれ」と茶葉の入った鍋を差し出し返してくる。
「茶なんて、初めてだ、、」
「そうなの?」
「んー、、村では茶なんて、村長くらいしか飲んで無かったんじゃないかなぁ」
この世界で初めて見る茶葉を鼻先に近づけてその香りを嗅ぐ。
そして鍋に水を張り、暖める。
「沸かし過ぎない方が良いのかな、、」
俺が慎重に鍋に手をかざしてゆっくりと『温』で暖めるのを、ソフィアが嬉しそうに隣で見ていた。
※※
オレインが持っていた干し肉を鍋に放り込み、
『乾燥』を施して固形化させたお手製のスープの元を鍋に割り入れ、ゆっくりと溶かしながら『温』で暖める。
旅の途中で、もう何回も繰り返した昼飯の作業だ。
スープの元は元の世界のコンソメを意識して、村で端材のクズ野菜を溜め込み、煮出して、少しずつ用意して来たものだ。
「それも便利だよなぁ」
匂いを嗅ぎたがったソフィアがコンソメ(もどき)のブロックを手に取るのを見ながら、オレインが言う。
「手間だけど、時間を掛ければ誰でも作れるんじゃない?」
スープの味に納得出来ない俺は鍋にこっそりと『美味』を付与しつつスープの味を確認しながら、味が馴染むのを見守った。
「この固形のブロックだけでは足りないの?」
「色んな物を混ぜ過ぎて、味に深みは出てるんだけど、何の味なのか分から無くなっちゃって、、」
ソフィアが味見をしたがるので、味見用に少しだけスープを椀に注いで渡す。
ソフィアはくちの中でゆっくりと味わって答える。
「これでも、十分おいしいと思うけどなぁ」
(元の世界ではハーブソルトなんて便利なものがあったなあ、、もしくは胡椒か?)
俺は自前のスープの味に、納得が出来ないでいた。
※※
「旅では普通、こんなに手早く飯は作れないのよ」
「普通、、?は、どうしてるんですか?」
隊商の後方警戒で荷馬車に同乗していたソフィアに、焼き目を付けたパンを渡す。
軽く礼を言いながらソフィアがパンを受け取る。
「干し肉を齧ったり、酢漬けの野菜をパンに挟んだり、、」
ソフィアが少し離れたハドメを囲む一団の食事風景を見やる。
確かに彼らは干し肉を齧りながら、固パンをぼそぼそと噛んでいる。
「昼にわざわざ火を起こしている時間が勿体ないしね」
ソフィアは暖かい、お手製コンソメスープを美味しそうにすする。
「そんなもんですか、、旅は初めてなもので、何も知らなくて」
「おい、俺はちゃんと旅の説明はしたぞ?お前が聞いて無かっただけじゃないか」
オレインが怒ったように言うが、俺は俺が欲しいものを用意する事に意識が向いていただけなのだ。
(旅の間の保存には固パンも有りなんだろうけど、街に行ったら酵母でも作って、柔らかいパンでも作ろうかなぁ)
俺は記憶の怪しい『発酵』の文字を思い出そうとした。




