森に住む者
「行きましたね」
「はい」
領邸の庭先から試験用の小型気球が上がっていく。
風で飛ばされないようにカゴにはロープを着けてあるので、後はラキネルが上手いことやってくれるだろう。
ラキネルなら空気を読んで、無茶な事はしないだろうしな。
何処かの俺とは違って彼は常識人なのだ。
「気球の仕様はこれで完成なのかしら?」
「ダンジョンで適当な魔物の皮があれば試してみるかもしれませんが、今の用途では困る訳ではありませんからね」
「今の?」
「、、、」
「あぁ、そういう進化をするのですか、、それはまだ早いかもしれませんね」
奥方様は俺の思考から、プロペラで自由移動をする気球船を読み取ってくれたらしい。
物流・交通の革命が起こるが、空から襲われたらたまったものじゃないしな。
元の世界でも事故を多発させた色物だったし、、。
「アオ、思考に注意なさいな?」
奥方様に注意をされてしまった。
※※
「酷い目にあった、、」
無事にご帰還なされたエドヴァルド様は産まれたての子鹿のように地面に突っ伏している。
仕組みを理解しないと怖さが倍増するのだな。
まあ、先に実験に参加してもらった、騎士団の有志の結果で分かっていた事なんだけども。
ラキネルは無事に操縦をこなしてくれた。
次期領主様を無事に帰還させたのだ、彼にも感謝しなければならないな。
「ラキネル用にゴーグルでも作るか、、」
割と似合うんじゃないかと顎に手をやって、デザインを考えてみる。
クラリッサお嬢様も欲しがるかもしれないし、お揃いというのも悪く無いな。
※※
「うぅ、、」
軽い頭の痛みを抱えながらベッドで目覚める。
ベッド、、これは私のベッドか、そうだ私は王都から帰って来て、
半年ぶりに会う妻と娘が私を迎え入れてくれて、そして何か、何だろう?
凄く小さな手と握手を交わしたように思うが思い出せない。
そして誰か居たような、、食客?食客ならエルヴァナが居る。
王都で血塗れで役目をこなした彼女をみるに見かねて我が領に呼んだのだ。
彼女には私も先代王も、現王も世話になった。
王都中を巻き込んだ長い戦いの中心にはいつも彼女が居た、そしていつもその剣で先陣を切ってきた。
世が治まった事で彼女の役目は終わった。
辛い思い出の残る王都から離れる事で、痛めた心を少しでも癒してくれればと我が領に食客として来ないかと、声を掛けたのだ。
彼女はいつものようにぶっきら棒に「、、森を自由にさせてくれるなら」と言ったものだ。
彼女にとって自由とは独りになる事なのだろう。
誰とも会わない森の中でこそ、彼女は彼女らしくいられる、そんな風に思うと目頭が熱くなったものだ。
しかし残念ながら私はすぐに王都へ縛り付けられてしまい、彼女が領でどう過ごしているのか知る術が無かった。
「エルヴァナ、、彼女はどうしてるのか、、」
そう呟いて窓を見ると、窓の外でアライグマがこちらに手を振っていた。




