固着
晩御飯は館で用意してくれた。
近くでサイズの良い鹿が捕れたそうで、『熟成』を付与して軽く焼いて味見をしてもらったら、
料理人が「コレに合うハーブは、、」と熱中してしまった。
ワインにも『熟成』して、エルヴァナ さんと2人だけの食卓を囲む。
軽くドレスアップした彼女に少しドキドキもした。
「、、館に残していた奥方様のドレスらしくてな。館の者が変に張り切ってしまったのだ」
「似合ってますよ」
エルヴァナさんの肉を切るナイフが小さく音を立てて、グラスの中のワインが揺れた。
※※
夜、部屋のバルコニーから湖を見下ろす。
月と星に照らされた湖面が煌めき、
緩やかな風が湖面を波立たせる。
「ふぅ、、お湯まで用意してくれると助かるな」
湯上がりのエルヴァナさんがバスローブをまとい、バルコニーに出て来る。
「、、、」
エルヴァナさんのバスローブに手をかざし、『調温』を付与するとエルヴァナさんが薄く笑う。
「ふっ、、随分と気が利くじゃないか」
「湯冷めしたら大変ですから」
エルヴァナさんにバルコニーの場所を空けて横に並ぶ。
月明かりに照らされた横顔に、風に吹かれた銀髪が宙を泳ぐ。
「良い所ですね」
「そうだな」
車の喧騒も無く、聞こえるのは風と波の音だけ。
俺はエルヴァナさんの耳がピクピクと動くのを見下ろしていた。
※※
「もう少し飲みますか?」
ローテブルのワイングラスを勧める。
「いただこう、、しかし、そんなに酔わしてどうするつもりだ?(笑)」
イタズらを企む子供のような笑顔を見せるエルヴァナさんを見て、片眉を上げてしまう。
「もしかして、もう酔ってます?」
「ん?んー?どうだろうなぁ(笑)」
バルコニーに椅子を用意するとエルヴァナさんが座ろうとして、脚を滑らせる。
「!」
とっさにエルヴァナさんの脇に手を滑りこませて、倒れそうなからだを受け止める。
「スマン、思っている以上に酔っているようだ、、」
「たまには良いんじゃないですか?」
彼女を支える姿勢のまま、抱き合うような形で触れ合う。
「、、離せよ」
「離れたら良いじゃないですか」
視線の先でエルヴァナさんの耳が真っ赤になっている。
エルヴァナさんはよく俺の言葉にしない心を読むけれど、
俺がエルヴァナさんの心の内を、耳の動きで読んでいる事を知らないんだろうな。
※※
「んっ、、おい、どういうつもりだ!?」
怒ったようにエルヴァナさんが小さく言う。
「どういうつもり、、さあ?」
バルコニーの手すりにエルヴァナさんのからだを押し付ける。
エルヴァナさんの手が行き場を無くして、俺の背中側で宙をさまようので、
エルヴァナさんの手首を取り、俺の背中に押し付けると、俺の服を強く掴んだ。
「本当に、どういうつもりなんだかサッパりですよ。、、奥方様は何か言ってませんでしたか?」
「、、、」
エルヴァナさんは答えてくれない。
「ふぅ、、年頃の男女を同じ部屋で寝泊まりさせて、今回は館の外でも同室で、あなたは無防備に酔って、風呂なんか入っているし、、あなたは教えてくれないんですか?」
「分かってたのか、、」
「はぁ、、流石に自分がおかしな立場になっているのは分かりますよ。村出の田舎者には過分な事をしてもらっていますし」
エルヴァナさんはため息を一つ吐き、からだの力を抜いて俺のからだに体重を預けて来た。
「伯爵様は知らんが、奥方様はお前を領に置きたがっている。
配下の者と恋仲、、にでもなれば、とでも思っているだろうな」
「まあ、でしょうね、、勝手だなぁ」
「、、スマン」
「師匠に謝って貰う事では無いと思うんですけどね」
「それはそうだが、いや、私も流されて今ここに居る訳だし、、」
「、、それって、俺と恋仲になっても良いなんて思ってるって事ですか?」
「!」エルヴァナさんが俺を突き飛ばそうと、背中の手を離そうとする前に『固着』を掛ける。
「あっ!?お前っ、ズルいぞ!?」
「ははっ、何の事ですかね?」
俺はそっと彼女を抱きしめた。




