乗馬
「まさか馬に乗れないとはな」
「村では機会が無かったんですよ。荷馬車を引いていたのは、かなりの老馬でしたしね」
エルヴァナさんと馬の話で盛り上がっていたのだが、
乗馬で遠乗りをしようと振られて、俺が馬に乗れない事を告白した。
「馬も高価だからな」
すっかり体調の良くなった松風号(命名:俺)にタンデムで乗せて貰う事にした。
鞍の後ろに乗ったエルヴァナさんが俺の腰に手を回す。
(うっ!)
「なんだ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!さ、行きましょうか!」
俺は綱を引き、教わった通りの並足で、ゆっくりと馬を進めるのであった。
※※
「上手いじゃないか」
「、、馬が上手なんですよ。あと『感知』が利いているのかも」
そう言うと馬が小さく「ぶるる」と返事をする。
(意思疎通が出来るってのは便利だけど、逆に悪口なんて言おうものなら何をされるか分からんな)
コイツは俺が面倒を見た事を覚えているから良いが、振り落とされないように言葉には気を付けないとと心に刻んだ。
※※
『軽量化』の掛かった鞍に乗ることで、馬は俺達2人が居ないかのように軽快に歩を進める。
普段とは違う目線の高さに驚く。
「こんなに目線が高くなるものなんですね、、遠くまで見渡せる」
「馬乗り、馬好きが増える訳だな」
左手には少し離れて大河が見え、川沿いまで出れば向こう岸まで見通せそうだ。
領都を横切るように馬を進め、遠くに見える山脈の切れ目を目印に道を進む。
「目の前の山がドララム山だな、あそこの山が伯爵領の境目になる」
「随分と広いんですね、、手前は森かな?」
「山すそまで、歩けば3日という所か、まあ私も行った事は無いんだが」
山の頂上には残雪が見える。
季節を考えれば標高は2000mを越えるかという所だろうか。
「ここは国の中で北寄りだからな、国の中では涼しい方なんじゃないか」
ふーん、と返事を返す。
「アオの村はあっちだよな?」
「そうですね、森が深かったせいか寒さなんかは気にした事が無かったなぁ」
服にも家にも『温』を掛けていたせいだろう、寒さに困るような事は無かったのだ。
「付与魔術が無ければ生活は苦しかったかもしれませんね」
日本でも寒村では死人が出たと言う。
この世界、特に付与魔術でのサポートが始まっているこの国では人間は急速に生活圏を広げているのだ。
「私の村は南だったからな、こちらに来たばかりの頃は寒さに戸惑ったよ」
「へー、、エルヴァナさんの産まれた所って、近いんですか?」
「海を渡った島だな。船と馬車で大体2ヶ月って所か?」
「あー、それは遠いですねえ」
エルヴァナさんは30年程前に家族を残して王都の近くに出て来たそうな。
王様も2人変わって、今の王都はその頃とは全然違うらしい。
「30年で三人目ですか、多いのか少ないのか分から無いなあ」
「、、、そうだな」
そう言うとエルヴァナさんは少し黙ってしまった。




