模擬戦
森の狩りは楽しかったのだが、いかんせん普段の運動不足の解消にはならなかった。
そんな事をエルヴァナさんにグチったら「じゃあやろうか?」とお庭に案内されたものだ。
「アオが遠間な技を得意としている事は分かった。しかし接近戦も覚えておいて損は無かろう」
そんな事を嬉々として言った後、エルヴァナさんは俺の頭を目掛けて根を鋭く打ち込んで来たのだ。
「ちょっとお!!いきなり本気じゃないですかぁ!!!」
俺の獲物に合わせて胸の長さの根を武器に、エルヴァナさんが根をくるくると回しながら近づいてくると、
後半歩という所から、突然加速したような連撃が襲ってくる。
愛用のスリングスタッフを根に打ち合わせ、エルヴァナさんの体が伸び切ったと見てスタッフの先で根を絡め取ろうとする。
「ははっ!やるじゃないか!」
こちらの意図を読んだエルヴァナさんが一瞬早く根の方向を変えて、横薙ぎに大きく払う。
間合いの外にバックステップで下がって避けるが、再びエルヴァナさんの連撃が襲いかかって来る。
「あらあら、随分と楽しそうねぇ」
「お母様、これも美味しいですよ?」
「くぅん」
なんかギャラリーが、お茶会がセッティングされてるのを横目に見ながらエルヴァナさんの攻撃をさばいて受け止める。
「随分と余裕じゃないか?そろそろキミも打ち込んで来たらどうだい!?」
エルヴァナさんの攻撃にこちらが慣れはするが、逆にこちらの動きも読まれて来ている。
このままではラチが明かないと、靴底に魔力を集めて靴に仕掛けている『快足』を発動させる。
突然の加速にエルヴァナさんが一瞬驚きを見せるが、なんなく避けられて、反対にすれ違いざまに足を引っ掛けられる。
空中でからだが一回転するのを片手で制御して、側転をしながら足元を狙ってスタッフを振り切る。
エルヴァナさんが小さくジャンプしてスタッフの大振りを避けて、こちらの体勢が整わない内にまた間合いを詰めてくる。
※※
お互いにクリーンヒットが無いままに庭先で打ち合う。
こちらは付与魔術のズルを時折り混ぜているのに、攻撃が当たらないのだ。
グローブの『剛力』を発動させて、低い体勢から渾身の突きを放つ。
エルヴァナさんは顔を傾けるだけで難なくかわし、詰まった間合いからカウンターの前蹴りが飛んでくる。
『反発』を付与した逆の手で蹴りをはじき、こちらも回し蹴りを放つ。
当たった?と思った瞬間に、エルヴァナさんの体がフワりと浮き、俺の蹴り足の上に片腕で立つ。
「ふっ!!」
気合いと共にエルヴァナさんの空中からのかかと落としが振り下ろされる。
マズいと思い、スタッフを捨てて両腕で肩口をガードする。
間一髪ガードが間に合うが、空中で一回転したエルヴァナさんの踏みつけが体勢を崩した俺の顔面を襲う。
必死に顔を逸らすが、足先が頬を掠めて血が飛び散る。
エルヴァナさんが飛び散る血を見て怪しく笑い、俺も何故だか笑いが止まらなくなってしまっていた。
※※
根とスタッフの打ち合いではラチが明かないとお互いに捨ててしまい、
徒手空拳(一部チート有り)で殴り合う。
距離を詰め、攻撃の回転を上げ、チートを使って相手の予想を上回る一瞬の攻防に賭ける。
そんな楽しい時間は突然に終わりを告げたのであった。
エルヴァナさんの額に汗が浮かぶ、彼女だって無限に体力がある訳では無いのだ。
そして俺には無限を可能にするチート技、『快癒』がある。
頬の傷は既に塞がっている、失った体力も徐々に取り返して来ている。
時間は俺の味方なのだ。
(ここだっ!!)
エルヴァナさんの裏拳を手首で打ち上げて交わす。
俺の眼前にはガラ空きの胴があるだけだ。
「ふっ!!」
『快足』『剛力』を発動させた渾身の一撃が、、放たれなかった。
何が起こったのか俺にも分から無いぜ、
何か恐ろしいものの片鱗を味わったような、そうでも無いような。
スローモーションになる世界でエルヴァナさんのカウンターの蹴りが近づいてくるのが見える。
(あー、マズい避けないと、、ダメだ、動けない、、なんだこれ、、)
俺はカウンターをモロに食らい、庭の端にある太い木の根元までふっ飛ばされた。




