付与魔術は便利
「アオ!」
俺の名前を叫んだオレインが馬の綱を引き、荷馬車を止める。
俺は荷馬車の後方から素早く立ち上がり、周囲を見回す。
「右だっ!」
オレインの声に体を向けると、右手の草むらをこちらに駆けてくる中型のツノウサギが見えた。
「任せて!」
俺は手元に用意していたお手製のボーラー、2つの球を紐で結んだ拘束武器を手に取り、球の片方を回しながらツノウサギの向かう斜め前に出るように走り出す。
ツノウサギが荷馬車に向かって攻撃のための跳躍をした瞬間に、勢いをつけたボーラーから手を離し投げつける。
回転の勢いに乗ったボーラーは風を巻き込みながら、まっすぐにツノウサギに飛び、ボーラーが前脚に絡みついた瞬間、ツノウサギの身体が大きく傾いた。
ボーラーに絡み取られたツノウサギは一瞬の内にショックを受けて、顔から地面に叩きつけられた。
「やったのか?」
「待って、仕留めるから」
ツノウサギのツノを足で踏みつけ、首筋に解体用のナイフを突き刺し、一気に切り裂く。
ツノウサギの体が強張り、やがて力を失っていくのを足裏で感じながら、流れる血を見下ろしていた。
「昼飯はコイツだね」
「相変わらず手際がいいな」
オレインと笑い合いながらツノウサギの処理を始める。
※※
石で作ったボーラーには、球の部分に『拘束』と『痺』をそれぞれ付与している。
先手を取られても動きを止めれば森での狩りには十分だ。
村での生活では農作業の傍らで森で定期的に狩りをしていた。
弓矢を試した事もあったが、この世界の動物は大きく危険で、非力な俺の放つ矢の一本では止まってくれないのだ。
そこで石を加工し、付与魔術を施して少しずつ練習を積んで来た。
「貴重な狩り手が家を出るってんで、村から出して貰えなかったんだよな」
「、、兄貴らにはコイツの使い方は教えたよ」
肉を狩る人手と、食い扶持が減るのでトントンだろう。
もっと殺傷力の高い武器も色々と考えたが、過剰な武器でヤり過ぎても傷だらけの獲物では売り物にならないのだ。
「血抜きして、後で毛皮を取っておくよ」
ツノウサギの足を荷台の端に括り付けながらオレインにそう言うと、
「もう一匹くらい出ないかなぁ」
なんて辺りを見回しながら呑気な事を言うので、一緒に笑った。
※※
「見事な腕だと思うんだが、しかしダンジョン冒険者になる気は無いんだろ?」
「話のタネに一回くらいは潜るかもしれないけど、冒険者になる気は無いね」
『着火』の付与を施した枝で携帯カマドに火を付ける俺に、オレインが話かける。
「ダンジョン冒険者でも十分やってけると思うんだがねぇ」
俺の差し出した『温』を施した白湯のカップを熱そうに持ちながらオレインが言う。
「、、付与魔術師が現場に出るなんて、おかしいだろ?」
付与魔術師自体の数は少なくは無い。
10人に一人と言われる付与魔術師は、一般的な属性魔術師の割合よりもずっと多い。
しかし付与魔術の技は一つひとつが高価であり、技を学ぶには師匠に師事をして長い期間学ばなければならないのだ。
そして付与魔術は街の生活やインフラに深く根ざしているため、一般的にはホワイトな技術職として扱われるのだ。
「生活するだけなら、付与魔術は便利そのものなんだけどね」
荷馬車で『熟成』された、カマドの上のツノウサギから目を離さない。
「付与魔術を便利使い出来るお前が言うと、他の奴から怒られるぞ?」
「なんとなく分かっちゃうんだから、しょうが無いよ」
こちらの世界に無い、付与魔術に必要な『漢字』を思い出すだけで、俺の出来る事は無限と言えるくらいに増えていく。
残念なのは記憶が怪しい漢字がいくつかある事だろうか。
10年間で小石に付与をして、失敗を繰り返しながら、『あー、そうだったそうだった』と何度も記憶し、記録して来たのだ。
「まあ、街には粗暴な奴らや、ギャングなんてのも居るんだ。あんまし目立つなよな?」
「分かってる、、ほそぼそと稼がせて貰うよ」
焼き立てのツノウサギを美味そうに食べるオレインに答える。
付与魔術は便利だ。
世の中を変える、技術革命も出来るだろう。
しかし人に使われてしまっては、せっかくの付与魔術がブルーカラーになってしまう。
別に働くのが嫌な訳では無いが、他人に便利使いされるのが気に入らないのだ。
付与魔術を一番便利使いするのは、俺自身でありたいだけなのだ。




