快癒
『出水』で桶に出した水を飲みきった老馬の首筋を、『快癒』を付与した数珠で撫でつける。
休憩が終わり馬車に再び繋がれた馬は自分が癒されているのが分かるのか機嫌良く鼻先をこすりつけてくる。
「ふふっ、、午後も頼むぞー?」
空になった桶を荷台に積み込むと、オレインが荷馬車をゆっくりと進め出す。
俺は荷馬車の荷台で座り込み、後方の警戒をまた始めた。
※※
「あー、ケツが痛い、、アオ、俺のケツをさすってくれよ、、」
今日の宿についたオレインが自分の尻をさすりながら泣き言を言う。
「誰がするかよっ!ほらよ」
宿の備え付けのクッションに『快癒』を施して、オレインに投げつける。
「行商がケツが痛いくらいで泣き言を言うなよな」
「普段なら言わねえよ、でも一旦楽を覚えちまうと途端に我慢が出来なくなるんだよな」
「荷馬車の運転席にも『快癒』を施してたろう?」
「、、途中で術が切れてたぞ?手抜いたんじゃねえのかよ」
付与魔術は物の持つ魔力量と、術者の込める魔力量で効果や時間が変わるのだ。
術を安定して使うには、定期的に掛け直さないといけない。
「術代をケチるからだ」
「乗せてやってんだから、それぐらい割り引けよな」
「乗車賃はもう払ってるだろ?契約は守れよな」
今回ダンジョン都市への運賃は、途中の護衛と荷馬車への『軽』で支払済みなのだ。
荷馬車の荷台の裏側に魔石を仕込み、軽量化を施した、恐らく1年は持つだろう。
「運転席のクッションにも魔石を入れようかな、、」
「、、代金を払うのなら構わん、街に着くまでにゆっくり決めれば良いだろ」
自分の枕に『安眠』を施しながら、オレインに答える。
ちなみに『快癒』も『安眠』も、学ぶためには金貨を積まなければならない。
『出水』に至っては国が買い取るレベルだ。
ダンジョン都市へは村から村へ、渡りながら少しずつ進むしか無い。
途中には道を開いただけの野営所もあるが、大きな隊商でも無ければ極力野宿なんかはしない方が良いのだ。
※※
宿の一階で注文した飯を待ちながら、2つのエールに『冷』を施す。
「うめー」冷えたエールを飲み干すオレインの機嫌も良い。
「おおっ!オレインじゃないか!奇遇だな!!」
談笑をしていた一団からオレインに声が掛かる。
「、、ハドメか、、久しぶりだな」
一瞬の間の後でオレインが答える。
気の置けない仲良しって雰囲気では無いのが分かる。
「なんだぁ?こんな村で会うなんて珍しいじゃないか?行商は放ったらかして大丈夫なのか?」
「行商の方は息子に任せて来た、、アイツももう独り立ちさせないとな」
そう答えるオレインに、ハドメという商人は『そうだ、そうだ』と訳知り顔で頷く。
オレインは手元のエールを睨むように、苦虫を噛んだように口元を固くしていた。




