旅立ちの日
300話程書き上がったのでアップします。
皆さんの何か琴線に触れたら嬉しいです。
感想・突っ込み大歓迎です。
先の展開が予想出来たら、おめでとう!
「いって、、」
ガタゴトと揺れる荷馬車の荷台で、木箱を背にまどろんでいると、
不意に車輪が小石に乗り上げて、寄りかかっていた木箱に頭を打ち付けた。
「おーい、大丈夫かぁ?」
荷馬車の運転席、俺の背後の方から声が掛かる。
「はーい、、大丈夫でぇすぅ」
痛む頭を押さえながら返事を返すと、荷馬車の持ち主である行商のオレインが軽く笑う。
辺境の村に毎月、定期的に行商に来ていたオレインと少しずつコミュニケーションを取り、彼と同道するならという事で、15歳の節目になんとか村を出る許可を得たのだ。
育ての親である村の神父様は、俺がダンジョン都市を目指す事に渋っていたが、最後にはなんとか説得が出来た。
『いいですかアオ?控え目に、目立たないように、ですよ?』
農家の三男に産まれ、教会で行われる5歳のスキル授与で突然前世の記憶に目覚めた。
おぼろげに思い出せたのは『にほん』という国で、30歳まで生きた記憶だった。
しかし詳細は思い出せず、自分がどんな人間だったのかまでは思い出せなかった。
覚えていたのは日本で使われていた『漢字』、そして原語の違うこの世界で得たスキル『付与魔術』が『漢字』で出来ている事だった。
「まさか漢字が、この世界では解読不能な古代文字扱いだとはなぁ、、」
おれ、伊東蒼は図らずして付与魔術のマスターになっていたのだ。
※※
付与魔術、属性魔術と異なり物体に魔力を込める事で様々な事象を引き起こすちから。
素材の持つ魔力親和性と、術者の魔力によっては10年単位で効果を及ぼし続ける魔術も行使可能だが、
しかし難解な古代文字は多くが失伝しており、個々の魔術を習得は師匠につく必要があり、伝承するには長い年月と莫大な費用が掛かってしまう。
国でサポートされている付与魔術は『温』『冷』『保存』のみっつ。
付与魔術のスキル保持者は基本の3つは国から無料で教えられ、付与魔術に目覚めた者ならば誰でも使う事が出来る。
「まぁ、その3つだけでも村の生活の中なら超便利だったんだけども」
物も技術も無い寒村では冬は隙間風の吹く家屋を暖める補助に、夏は水を冷やし、収穫物を保存する。
たったそれだけでも毎日のように村中の家々を周り、隣村まで行かされた。
「おかげでオレインと伝手が出来たのは良かったのだけども、、こき使いすぎだってーの」
隣村に訪れていたオレインが次は自村まで荷馬車で訪れると聞き、乗せて貰う代わりだと隠していた付与魔術の一端を明かしたのだ。
『おい、、すげぇな!こんな魔術があれば、街に出ればひと財産稼げるじゃねぇか!!』
荷台の荷物に物を軽量化する『軽』の文字を魔法で描いたところ、オレインは快く荷台に乗せてくれたのだ。
それからオレインが村に来る度に街の、国の話を聞き、何が流行っていて、何が売れるのかをずっと聞き出してきた。
『行くのなら王都じゃなくて、王都の隣のダンジョン都市だな』
『へー、、ダンジョンかぁ』
『あぁ、王都は何もかもが高くて着飾ってやがる。ダンジョン都市はいつでも物が不足してるから、そこで基盤を作るべきだと思うぜ?』
そんな話をオレインから聞いてから、親を説得するのに5年掛かってしまった。
そして、付与魔術師に新たに目覚めた村の子供が出た事を切っ掛けに、今回村を出る事を許された訳だ。
「兄貴らは怒ってたけどもなぁ、、村で飼い殺しする気マンマンじゃねえか」
ダンジョン都市まで荷馬車で一ヶ月、軽量化された荷馬車を軽快に老馬は引いてくれるが、
荷台が軽すぎて小石に跳ね上げられる事までは読めなかった。
「何でも叶う便利さでは無いんだなあ」
『快癒』を付与した手首の数珠を痛めた頭に近づけると、徐々に痛みが消えていく。
旅の荷物は極小だ。
10年間で考えた旅の便利グッズと、お手製の武器、そしてオレインに頼み込んで得た解体用のナイフが一本。
この世界で付与魔術で成り上がる事を夢見ながら、俺はまた荷台でまどろむのだ。




