発酵
「こう、ですね、しっかりとお湯で綺麗にした瓶に果物、、今回はレーズンですね。それとお湯を少々入れて、しっかりと蓋をします」
瓶の蓋が固定出来ないので、蓋代わりの板を『固着』で付与する。
旅の固パンの話しから『街に着いたら、柔らかいパンが食べたかった』と話すと、ルーナさんが『食べたい!』と言うので、館の調理場を借りたのだ。
「瓶じゃないとダメなの?」
「いや、何でも良いけど、中が見えた方が変化が分かりやすいんですよ」
軽く瓶を振って、撹拌をする。
「いきますよ、、」
『発酵』を少しずつ付与すると、ガラス瓶の中のレーズンが膨らみ始める。
一旦術を切って再度瓶を撹拌する。
繰り返す毎に徐々に瓶の中身が増えて色が濃く、茶けてくる。
「本当は4日、5日掛けてゆっくりと育てるんですけどね、、これはズルですね」
イメージが優先される付与魔術のおかげで、カビが生える暇も無く瓶の中で酵母が育っていく。
「育ちきったら、これを種、、核と言った方が伝わりやすいのかな?にして、小麦粉を加えると、小麦粉を栄養にしてコイツが更に増えるんですよ」
「へー」
完成した酵母種に、小麦粉・砂糖・塩を加える。
「で、コイツにバター少量をよく混ぜて、、休ませて
、、からの、『発酵』!」
ボウルに丸く整形したパンが、みるみる内に膨らむ。
軽く指で穴を空け、穴が塞がらない事を確認する。
「穴が閉じないですね、これで発酵が完全に完了した事が分かります」
出来上がったパンを押し潰し、くるくると丸めてロール状に仕上げる。
キッチンの良さそうな型枠にパンロールを綺麗に置き、温めていたオーブンに入れる。
「ふぅ、、なんとかなった、のかな?」
完全に目分量だけど、記憶の通りに作れた、間違いは無かった。
本当は12時間と少し掛かる発酵の工程を全て付与魔術で補った『魔術パン』だ。
さてさて、後は焼き上がりを待つだけだ、楽しみだなあ。
※※
「おいしー!!」
「おー、、これは、、」
ルーナさんと料理人の人達で、出来立てパンの味見会を開いた。
実際の出来はともかくとして、
空きっ腹と出来立ては3割増しで美味しく感じるものなのだ。
「ちゃんとレシピを作って、小麦粉を厳選すれば、もっと上を目指せるんだろうなぁ、、」
夢に見た柔らかパンの第一号を噛み締めながら、俺はさらなる高みを思い描いていた。
※※
「で、コレがその魔術で作ったパンかね」
「はい、果物に住んでいる良いもの、、見えないそうですが、を、育てる事で小麦粉が変質するとか?ちょっと分かりません、スイマセン」
「、、美味いな」
「料理長が分量を変えて20個作った、一番出来が良いと思われるものです」
「それは、、大変な苦労だったんじゃないか?」
「いえ、アオさんが料理長の横で嬉々として魔術を使っていましたから、実際の手間はメモを取る方が大変だった様子で」
「魔術を使った料理ねぇ、、聞いた事が無いな」
「でも、美味しいですよ?」
※※
「あれから考えたんですけどね、そんなに難しい話しじゃないと思ったんですよ」
料理長との新料理開発は今も進んでいる。
今はパスタ作りをするために、麺を伸ばすための器具作製を誰に頼むか検討中だ。
ルーナさんが相変わらず柔らかパン、酵母にこだわっているので、
どうやって説明したものかとずっと考えていたのだ。
「酒、、ワインとか、チーズとか、酢もなのかな?割と発酵って使われてるはずなんですよ」
ルーナさんがフムフムと頷く、本当に分かってるのかなこの人。
「で、ちゃんと温度やらなんやらを管理してあげて時間を経たせると、発酵が進んで独特なクセが出るし、角が取れて馴染んで来ると」
俺はルーナさんが用意した2つのグラスに注がれたワインの片方に『発酵』を付与する。
「どうぞ」
発酵させたワインを飲み比べしてもらうと、明らかに味が、風味が違うワインにルーナさんが驚く。
「まあ、見えない物を説明するって、難しいですけどね」
「見えないもの、、それってゴースト的な?」
「違いますよ」




