4
もし生まれ変われるのなら、彼女みたいな女の子になりたい。
嵐麗華は、そんな女の子だった。
仲良くなったきっかけは、些細な事だったと思う。
中学1年の時、一緒のクラスで一緒の班になって、元々彼女のことが気になっていた私が声をかけると、意外にも彼女の方もそこそこ受け入れてくれたというだけの、ただそれだけの話。
その時は、「ああ、嵐さんてクールに見えて結構親しみやすい人なんだな」と思ったものだけれど、後にも先にも、彼女が誰かに自分から話しかけに行ったりするところを見るのは、それが最初で最後だった。
きっと、ウマが合ったというやつなのだろう。
とにかく、それ以来、私達はずっと一緒にいた。いや、麗華と違って私の方は別の子と喋ったりもしたし、麗華に予定が無い日は別の友達と遊びに行ったりもしたけれど、でもそれだって思い出せるくらいの数だ。だからやっぱり私は麗華とずっとずっと一緒にいたんだろう。
学校は言うに及ばず、お互い部活に入っていなかったため放課後も学校に残って喋ったり、互いの家に行ったり、てきとうに近所の公園なんかに行ったり。
休日は、イオンのようなショッピングモールに行くことが多かったけれど、他にも本好きな麗華に付き添って図書館や書店、そのついでに互いの家で勉強したり。
初詣もバレンタインデーもお花見も夏祭りも海もプールも紅葉狩りもクリスマスも、全部全部彼女といた。
ずっとずっと一緒だった。
だからこの先もずっと一緒だと、そう思っていた。
――麗華が話しかけてくれなくなった、私達の第一志望であった、私立瀬城高等学校の合格発表の、その日まで。
「……夢か」
起きた。
背中の下にはベッドがある。
格好は制服のまま。
どうやら学校から帰ってきて早々、ベッドに倒れ込んで寝落ちしてしまっていたらしい。
「最悪の夢だ……」
ごろんと90度ほど転がり、机の上の、日付と現在時刻が記されているデジタル時計を見る。
時刻は22時。うちは基本20時あたりに大学1年生の姉と両親と私で晩御飯を食べるのが日課だ。つまり、彼らはご飯にも関わらず私を起こしてくれなかったということ。 ……いや、まぁ、いいんだけど。ご飯を食べる気分でもなかったし。朝になっていなかっただけまだましだ。
「もう、友達作ったんだ」
ゴロンとまた仰向けに転がり、私は呟いた。
帰ってきて、自分の部屋に入るなり、なんとなく風でも浴びたかったのか、私は窓とカーテンを開けっ放しにしたらしい。
上を向くと、風にはためくカーテンと、月明かりが目に入ってくる。眩しい。私は、私の腕製のアイマスクで目を覆う。
……数時間前、夕焼けの中囁かれた、彼女のあの台詞は、一体、何を意味したものだったのだろう。
単なる事実確認? いや、そんな口調じゃあ、なかった。
じゃあ、自分よりも早く友達を作られてしまったことに対する悔しさ? 確かにそんな響きはあったかもしれない。でも、それだけじゃあなかったように思う。
でも、だとすると……。
「いや、そんなわけがない。そんなことがあるわけがない」
私は自分に言い聞かせるように呟く。
でも、それじゃあ、何で麗華は今日、話しかけて来てくれたのだろう? 嫌いな相手なら話しかけないはずだ。しかもわざわざ、私が友達と話し終るのを待って。いや、それも考えすぎなのだろうか。単になんとなく気が向いたから話しかけただけなのだろうか。となると、今日、彼女の気分を損ねてしまった私は、もう二度と麗華から話しかけられることはないのだろう。最悪、私と会わないために通学用の道を変えられてしまうという可能性もある。じゃあ、こちらから謝るしかないんだろうか。けど、一体何を謝ればいいんだろう。友達を作ったこと? それとも、友達ができたのか麗華に訊いたこと? そうだ。何故私はあんなことを訊いたのだろう。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく私は麗華に謝らないといけないんだ。だけど、謝ったところで、私達はまた仲良くなれるんだろうか? というか、これはそもそも何なんだろう? 友達だったなら喧嘩だと言えるだろう。けど、私達は今、そもそも友達なのかさえ怪しい。だとすれば、謝っても意味などないのではないだろうか。
友達じゃあ、ないのなら。
私は、麗華のなんなんだろう?
「ねぇ、教えてよ。麗華」
腕を視界からどけ、雲間から覗く月を見上げる。
「私はまだ、麗華の友達なのかな?」
見下ろしてくる月光は、綺麗でも神秘的でもなく、ただただ眩しく、うっとうしかった。
ご一読ありがとうございました。




