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4月末と言えど、夕方になればまだまだ冷え込む。
昔の人はこの時期を夏と呼んでいたらしいが、とても正気とは思えない。
しかも、今の気温と比べて、昔の冬や春はもっと寒かったはずなのだ。
はっきり言って、頭おかしいと思う。
ただでさえ寒がりな私だ。
今、私が昔にタイムスリップし、「いやあ夏になった」と記念に一句詠んでいる歌人がいれば、片っ端から「やせ我慢すんな」とツッコみをいれていくことだろう。
何が春過ぎて夏来にけらしだ。
……ただ、私が寒いのは、どうやらそんな時代錯誤なツッコミのせいというわけではなく、また、暦上の問題というわけではないようだった。
「………」
「………」
引き続き、学校からの帰り道。
今朝も彼女を見かけた、西に幹線道路、東に田畑を湛えた小川沿いの道。
さっきばったり会って、なんとなく成り行きで一緒に帰ることになった私と麗華の間を風が通り抜け、私はセーラー服の上に羽織ったカーディガンが浮き上がるのを抑えた。
肩が触れ合うほどの距離にいれば、多少は互いの肌のぬくもりを感じられるのかもしれない。
しかし、生憎と私と彼女の肩は並んでいない。
かと言って、遠く離れているかと言えばそうでもなく、ずっと平行線上には存在している。
まるで互いの首が、解けない縄のロープで結んであるよう。
決して近づきたいわけではない。
だから離れようとするのだけれど、しかし、無理に離れようとするとロープが食い込んで痛い。
なので互いにぎりぎり痛くない程度まで離れ、一定の距離を保ち続ける。
隣を走っているのは、友達だったはずの女の子で、しかも少なくとも、二か月ぐらい前までは親友だったはずなのに。
「ねぇ、さっきの質問、まだ答えてもらってないんだけど」
私や流ちゃんと違って、麗華は、背筋を伸ばし、ハンドルにもきちんと両手を置いたまま、こちらを見ずにそう言ってきた。質問?
「……さっきの娘のこと。友達なの?」
今度は若干、麗華は苛立たし気に言った。
そう言えば、確かに質問に答えていなかったことを思い出し、私は慌てて言葉を紡ぐ。
「う、うん。そうだよ。高校でできた、新しい友達」
「……! そう……、もう、友達作ったんだ」
麗華は伏目がちに言った、ら
……それは、いったいどういう意味だろう。
シンプルに、ただ私がもう友達を作ったという事実を繰り返し言っているだけなのか。もしくはその事実に驚いているのか。それとも……。
妙な間が降りる。
こういう時間を天使が通ると言うことがある。
しかし、私に言わせればそれは天使などでない。悪魔だ。
二人の間を裂く悪魔だ。
そんな悪魔を退治するべく、私はなんとか、その間を埋めたくて、言葉を紡ごうとする。
だが――
「そ、そうだよ。麗……えっと、嵐さんは、新しい友達できた?」
「……!」
——だが、それが悪手だったというか地雷だったらしい。
麗華は、ここでやっとこっちを見た。
しかし、それは今、川に反射している夕焼けみたいに苛烈な瞳だった。
「……できてないけど、何? 新しく友達を作るのが、高校生活とでも言いたいの? 別に高校ってそれだけのために行く場所じゃないでしょ?」
一方的に告げると、麗華は「ダン!」と勢いよくペダルを踏みこんだ。
「……っ! 待ってよ麗華……私、別にそんな意味で言ったんじゃあ……」
「気安く名前で呼ばないで。……ごめん、引き止めたりして。私、先帰るね。それじゃ」
「あ……」
そしてペダルを豪快に回し始めたかと思うと、麗華は私の伸ばした手を一瞬で振り切り、あっという間に私の視界からいなくなってしまう。
どうすることもできなかった私は、ゆらゆらと、沈みゆく夕日と共に、自転車を漕いでいくことしかできない。
……たしか、この夕方の時間帯は、逢魔が時と呼ばれることが多かったはずだ。
妖怪などの、不吉でこの世ならざる者と出会いやすいとされる時間帯。
ああ、やっぱりあれは天使などではなく、悪魔だった。
現れた悪魔は私から全てを奪い去り、そしていつの間にか夜に帰って行ったんだ。
ご一読ありがとうございました。




