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「はぁーーーー」
「えらい長い溜息だねぇ。溜息は吐くたびに幸せが一個逃げていくって言うぜ」
「……だったら一息も吐くなって? 休憩することさえ日本国家では幸せとされないことなの?」
「長さの問題なんじゃないかね? 一息って短い印象があるけれど、ため息って長い印象があるじゃん? つまり溜息を吐くと幸せが逃げるっていうのは、暗に長くは引きずるなってことを言ってるのさ。知らんけど」
「息吐くように嘘つくじゃん」
朝のホームルームが始まる5分前。
所属する1年1組の教室の窓の外を眺めつつ、溜息を吐いていた私に、流ちゃんは、そんな相変わらずのおどけた台詞を吐いてきた。
熊友流星こと流ちゃん。
入学式当日、出席番号が近かったことから友達になった流ちゃんは、いつもこんな感じだ。
イラストレーター志望らしく、その手の人種にままあるように、とても変わっている。
髪の毛も、いくら校則の緩い学校と言えど、あまりに異質なピンクと黒のしましま模様のショートボブというかなり尖った髪型。なんでもそういうのが好きなのだそうだ。
……しかし、だからなんだろうか。
——そんな尖った性格だから、胸の方も突っ張っているのは。
私よりも、いや、大半の生徒よりその体躯は小柄だというのに……。
私も少しは流ちゃんみたいにとんがれば……。
「どしたん? とうあん? ホトトギスが鉄砲喰らったような顔して」
「別に」
私の視界に急に流ちゃんがカットインしてきたため、私は慌てて顔を再び窓の方へ逸らした。
あまりに慌て過ぎて彼女の『ホトトギスが鉄砲喰らったような顔』というボケを見逃してしまったほどだ。
何だ。ホトトギスが鉄砲を喰らったような顔って。
ホトトギスじゃなくて鳩だし、鉄砲じゃなくて豆鉄砲だし。それだと殺されちゃってるし。信長だし。そもそも鳩が豆鉄砲喰らったような顔なんてしてなかったし。いや、ホトトギスに鉄砲の方の意味で使ったのならあながち間違ってもないのかな? いや別にどうでもいいけれど。
ああ、それとちなみに『とうあん』というのは私のあだ名だ。
私の名前は藤愛と書いて『とうあ』と読むのだけれど、彼女に呼びにくいという理由で改名を迫られてしまった。
糖と餡でなんだか丸くてうまいあいつを想起させ、私の体の部位のどこにもそんな要素はなく、むしろ『とうあん』はお前だろとツッコみたくなったが、特にそれ以外の文句はなかったのでまぁ勝手に呼ばせている。
いや、それも今はどうでもいいか。
とにかく、名前の話も胸の話も、そんなことを胸襟を開いて(胸だけに)話すわけにいかなかった私は、
「「はぁーーーー」
「えらい長い溜息だねぇ。溜息は吐くたびに幸せが一個逃げていくって言うぜ」
「……だったら一息も吐くなって? 休憩することさえ日本国家では幸せとされないことなの?」
「長さの問題なんじゃないかね? 一息って短い印象があるけれど、ため息って長い印象があるじゃん? つまり溜息を吐くと幸せが逃げるっていうのは、暗に長くは引きずるなってことを言ってるのさ。知らんけど」
「息吐くように嘘つくじゃん」
朝のホームルームが始まる5分前。
所属する一年一組の教室の窓の外を眺めつつ、溜息を吐いていた私に、流ちゃんは、そんな相変わらずのおどけた台詞を吐いてきた。
熊友流星こと流ちゃん。
入学式当日、出席番号が近かったことから友達になった流ちゃんはいつもこんな感じだ。
イラストレーター志望らしく、その手の人種にままあるように、とても変わっている。
髪の毛も、いくら校則の緩い私立と言えど、あまりに異質なピンクと黒のしましま模様のショートボブというかなり尖った髪型。なんでもそういうのが好きなのだそうだ。
……しかし、だからなんだろうか。
——そんな尖った性格だから、胸の方も突っ張っているのは。
私よりも、いや、大半の生徒よりその体躯は小柄だというのに……。
私も少しは流ちゃんみたいにとんがれば……。
「どしたん? とうあん? ホトトギスが鉄砲喰らったような顔して」
私の視界に急に流ちゃんがカットインしてきたため、慌てて顔を再び窓の方へ逸らした。
あまりに慌て過ぎて彼女の『ホトトギスが鉄砲喰らったような顔』というボケを見逃してしまったほどだ。
何だ。ホトトギスが鉄砲を喰らったような顔って。
ホトトギスじゃなくて鳩だし、鉄砲じゃなくて豆鉄砲だし。それだと殺されちゃってるし。信長だし。そもそも鳩が豆鉄砲喰らったような顔なんてしてなかったし。いや、ホトトギスに鉄砲の方の意味で使ったのならあながち間違ってもないのかな? いや別にどうでもいいけれど。
ああ、それとちなみに『とうあん』というのは私のあだ名だ。
私の名前は藤愛と書いて『とうあ』と読むのだけれど、彼女に呼びにくいという理由で改名を迫られてしまった。
糖と餡でなんだか丸くてうまいあいつを想起させ、私の体の部位のどこにもそんな要素はなく、むしろ『とうあん』はお前だろとツッコみたくなったが、特にそれ以外の文句はなかったのでまぁ勝手に呼ばせている。
いや、それも今はどうでもいいか。
とにかく、名前の話も胸の話も、そんなことを胸襟を開いて(胸だけに)話すわけにいかなかった私は、
「何でもないよ」
とだけ、窓の外を見ながらそう呟く。だが、どうやら流ちゃんからはそうは見えなかったらしく、私のそんな台詞と表情をどう取ったのか、流ゃんはこれまでの光を当ててやればそっちを向くんじゃないかと思ってしまうくらいのものだった、華やいだ笑顔を隠す。
がそれでも、すぐに優しく包み込むような、芍薬のような微笑みを浮かべると、私にこう問うてきた。
「もしかして、まだ気にしてるの? 麗華ちゃんのこと」
「…………」
ホトトギスは鳴かなかったが、予鈴は鳴った。
「何でもないよ」
とだけ付け足し、窓の外を見ながらそう呟く。だが、どうやら流ちゃんからはそうは見えなかったらしく、私のそんな台詞と表情をどう取ったのか、流ちゃんはこれまでの光を当ててやればそっちを向くんじゃないかと思ってしまうくらいのものだった、華やいだ笑顔を隠す。そして、すぐに優しく包み込むような、芍薬のような微笑みを浮かべると、私にこう問うてきた。
「もしかして、まだ気にしてるの? 麗華ちゃんのこと」
「…………」
ホトトギスは鳴かなかったが、予鈴は鳴った。
ご一読ありがとうございました。




