第1章 罪と罰
ご一読ありがとうございました。
陰鬱な時間が、今日も始まる。
県立瀬山高等学校、通称瀬山に進学して半月
その通学途中の、右側は一段高くなった幹線道路に並行し、左側は一面の田園が広がる、もはや自転車専用道と化している小さな川沿いの道。
そんな小路を高校に向かうべく、自転車を漕いでいた私、勝山藤愛は、同じように眼前で自転車を漕いでいる彼女の姿を見つけ、速度を緩めた。
一定の距離を保ちながら、私は、彼女の春風に踊り、朝日を照り返す、一級品の絹糸に一流の墨を染み込ませたような長髪と、私が着ているものとは違う高校の制服を追いかける。
決して追いつかないように。
決して気付かれないように。
自転車は後ろには漕げないから、のろのろと、前に。
回り道をしたり、いっそのこと止まるという選択肢もないではないけど、ここは頻繁に使われる通学用の道だ。周りには同級生の子もいる。そんな所を見られるのは、ちょっといやだ。
私は自転車のギアを緩め、更に距離を取った。
万が一彼女が振り返っても、私の顔は見えない。
でも、私からは、彼女が振り返ったことが分かる。 そんな距離。
川沿いの道が終わり、少し坂とも言えない、小さな勾配を上ると、大きい歩道に出る。
歩行者も自転車も通行可能な、さっきよりも一つ車線が増えた幹線道路の隣にある大きな歩道だ。
そこを三分ほど走れば、左に下り坂があり、更にそこから東に向かえば私の通う瀬山がある。
その坂に着き、そこを曲がる前に、私はちらりと前を見た。
彼女、嵐麗華は変わらず、ここからあと十分ほど先にある、彼女が通う高校へと向かっている。
一度も振り返ることはなく。
ただ前へ。
私も行くはずだった、私も行きたかった高校へ。
私は誰にも聞こえないよう、一人、そっと、呟いた。
「今日も、追いつけなかった」




