第4章 ヤマアラシのジレンマ
六月に入り、本格的に梅雨が訪れた。
空は当然、ネットで不吉な雲と画像検索をかけ、そのままそれをコピー&ペーストしたみたいなどす黒い雲が広がっていて、空だけではなく、普段透明な、通学路の脇を通る川も、すっかり同じような色に変わってしまっている。
湿度も、夏特有の、姑が新妻に向けるようないやなねちっこさで、合羽で雨をしのいでいるはずなのに、制服が汗で湿っていて、これでは自分が本当に雨から身を守れているのか分からなくなる。本当、時代は進み、いろんな技術は進化しているのに、何でこと雨に関してだけは、人間は主な防衛手段が合羽か傘の二択だけなんだろうか。
が、そんな風に変わらないことに対して文句を言う私は、季節は移り変わり、時代も進化しているのにも関わらず、自身は特に変化はない。
強いて。
強いて上げるならば、まぁ、次の三つくらいな物だろうか。
1つ目。
――再び友達になり、朝と帰りに一緒に登校していた女の子と絶縁し、会わなくなった。
……いや、まぁ、確かに字面で見ると結構大事に見えるかもしれない。
だけど、五月はともかく、四月はほとんど、彼女と行動を共にすることはなかったのだ。
だからあくまで五月が特別だっただけで、元に戻っただけ、もしくは本来あるはずだった五月病が一月遅れただけの、いわば五月病の延長というだけと言う考え方もできる。だから別に不思議はない。
2つ目。学校の授業についていけないと感じる機会が増えてきた。
……まぁ、これも大したことじゃない。
そもそも四月に、もともと志望校じゃないこの高校に入った時点で私のモチベーションはあまり高くなかった。元々やる気がなかったのだから、かような結果に落ち着くのは自明のことだっただろう。特に六月に入ってからそのように感じることが多くなったような気もするが、まぁ、それも五月病の延長であると考えれば納得がいく、だろう。
3つ目。とあることがきっかけで、高校に入ってできた、一番仲の良い友達と話さなくなって、ボッチになった。
……うん。これも別にままあることだろう。高校からの友達というのは、これまでの保育園、小学校、中学校と違って、知人の紹介からではなく、完全に新しい友達ができることが多い。
つまり完全にゼロベースから関係を構築するわけだ。
なら、その構築をちょっとミスってしまって破綻することも珍しいことではないだろう。
これもとどのつまりは五月病の延長ということで処理——
「――できるわけあるか」
教室の自分の机の上に乱暴に鞄を放り投げて、私は独り言ちた。
季節の移り変わる時期と言えど、流石に色々変わり過ぎではないだろうか?
いったい、この私が何をしたというのか。
当然、未成年がやる悪いことの代表格である酒やたばこや万引きなどの犯罪もしていないし、それに小さな悪事である、染髪も校則違反も遅刻もしていない。
なのに、何故。
……いや、何もしていないのが悪いのだろうか。
ただ、今降っている雨のように、ただ風の流れに身を任せてサボっていただけだからこうなったんだろうか。
だとしたら五月病恐るべし。
いや、五月じゃないから六月病か。
六月病、恐るべしだ。
麗華曰く、やる気のない人のただの言い訳ということだったが、やっぱりそういうものこそ馬鹿にできない。
そういう嘘っぽいものでも未だに根強く残っていると言うことは、やっぱりそう感じる人が多くいるから残っているわけであって、つまりはしっかりとした病気なのだ。
そして、病気なら仕方ないだろう。
ーーキーンコーンカンコーン。
始業のチャイムが鳴る。
六月病のせいで眠い私は、健康上の理由で、さっそく仮眠を取ることにした。
ご一読ありがとうございました。




