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「彼女と遊んで以降、朝も放課後も来なかったから何かあったとは思ってたけど……はぁ」
流ちゃんと遊んで3日後の土曜日。15時。天気は相変わらずの雨。
生憎の天候と、事前に約束していたこともあって、渋々私の家で勉強会をすることになり、この前流ちゃんの家であったことを伝えると、麗華はこめかみに人差し指を置いて、机を自分の吐息で湿らせた。
本当は言う気も、言いたくもなかった。
けど、さっきも麗華自身が言ったように、なんとなく麗華と会いずらくて、一緒に登下校するのを避けていた事と、麗華がしきりに「で、何があったの?」と訊いてくるので、吐かざるを得なかった。
「友達との約束を断っておいて、しかも、その間一線超えようとしてたなんて、何やってるのよ……」
「ごめん」
謝った。
いや、別に本来は謝る必要はなかったのかもしれない。
許可だって麗華に取っていたし、そもそも麗華と私は恋人でもなんでもないのだ。
だから、流ちゃんと私がどうなろうと、麗華が怒るようなことも、私が怒られるようなことはないはず。
でも、私は謝った。
だって、麗華は怒っているのだから。
私がそういうことをして、麗華は怒っているのだから。
だから――
「まぁ、いいわ。とりあえず、その子と仲直りできればいいわね」
「ーーえ?」
「何? 口に泥団子ツッコまれたような顔をして。分からない問題でもあった?」
ある。
思わず丸く口を開け、苦い顔を浮かべてしまうような問題がある。
「それだけ?」
「え?」
「それだけなのって訊いたの!!」
完全な無意識だった。
そうするつもりも考えも一切なかった。
なのに、気が付けば私の両手は座卓を叩いていた。
「……それだけって、何よ? 人との約束を反故にしておいて、どっか行って、かと思えばそんなのろけ話聞かされて、その上何で私がキレられなきゃいけないの?」
「なーーーー」
信じられなかった。こんなにも麗華が冷静なのが。
理解できなかった。何でこんなにも麗華が大人な対応をしているのか。
理解できた。私が、何でこんなにも怒っているのか。
私はーー
「……はそっちでしょ!?」
「え?」
「勝手にどっか行っちゃったのはそっちでしょ!?」
机の上に広げていた私の教科書及び筆記用具は、重力を無視して壁に吹っ飛んで行った。
私の手によって払われた教科書たちは壁にぶつかり、いてぇじゃねぇかよと言わんばかりに「バン!」と短く、しかし大きな抗議の声を上げる。
だが、会社で言えばパワハラを浴びせられた彼らの声は、今の私には一切届かない。
家族経営の大企業によくいるタイプの上司のように、感情の赴くままに麗華に罵声を浴びせ続ける。
「勝手にどっか行っちゃったのはそっちでしょ! 受験の時、自分が受かったら勝手に離れて! それなのに、突然戻ってきて! 寂しかったのかなと思ったら、前より頭良くなってて! 何? 成長した自分を見せびらかしたかったの!? 少しは置いて行かれる側の気持ち考えてよ!? 私が麗華と一緒に学校行かなくなったのも、帰らなくなったのも、そういうこと! 麗華との約束よりも流ちゃんとの約束を優先したのもそういうこと! 麗華が与えてくる劣等感から逃げて、麗華よりも一杯友達がいるってそう思いたかったからなんだよ!」
そうだ。
私は、麗華が許可してくれたから、麗華よりも流ちゃんとの約束を優先したわけじゃない。
劣等感から逃げるため。そして、自分には麗華みたいな頭はないけれど、流ちゃんみたいな素敵な友達はいるとそう思い込みたいためだった。
最悪だ。
流ちゃんに対してもそうだし、麗華に対してもそう。
だって麗華には何の非もない。
努力して、夢を見つけて、そして、喧嘩した友達とまた仲良くしようとしてくれていただけ。
なのに、私は自分勝手な感情に任せて、理不尽に彼女を詰めてしまった。
最悪だ。
最悪、絶交されておかしくないレベルで。
だが――
「嘘……そんなことって、あるの?」
「……え?」
怒鳴られ、挙句理不尽な罵声を浴びせられた麗華は怒ることもなく、ただ、勤続三十年のベテラン社員が突然解雇を告げられたように、ただぽつりとそう呟いていた。
腕は力なくフローリングに下ろされ、持っていたシャーペンはころころ転がって本棚にぶつかり動かなくなる。
「私も……同じだったの」
「は?」
同じ? 何が?
「同じだったの。私も、藤愛と同じ。私も、他の誰とでも友達になれる、なる藤愛に嫉妬してて、だから受験で私だけ受かった時は、実はものすごくうれしくて、勉強して、藤愛にないものを身に着ければ、藤愛と対等に並べて、きっと藤愛は私を選んでくれると思って、小説や勉強に逃げて。それでようやく並べたって思ったからまた話しかけて。それでも藤愛は私を選んでくれなくて――」
そこでハッとしたように、麗華は自分の口を押え込んだ。
だが、もう遅い。
麗華は言ってしまった。
私が麗華を選ぶ云々じゃない。
もっと重要な台詞を。
そして、私も麗華もそれに、気付いてしまった。
「……そう。私達って、それぞれ刃を持ってるのね。一緒にいるだけで、互いを刺してしまう、刃を」
私は頭の良い、確固たる自分を持っている麗華を。
麗華は、誰とでも仲良くしてしまう、麗華だけを選べない、私を。
一緒にいるだけで、私達はそんな嫉妬を抱き、勝手に自分を、相手を傷つけてしまう。
だから――
「だとしたら解決方法は一つしかないわね」
麗華は勉強道具を手早く鞄にまとめ始める。
手際よく中に収めると、立ち上がった。
背中を向け、私の部屋の扉を開け、そしてまた私の元に戻ってくると、
「大好きだったわ。藤愛。じゃあね」
私の首に腕を回し、押し潰すように私の唇にキスをして、私の部屋を後にした。
部屋のカーペットに涙の染みを残して。
ご一読ありがとうございました。




