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ゴールデンウィークが終わり、1週間が過ぎた。
ゴールデンウィークから1週間ーーそれは日本中の社会人と学生が揃ってやる気をなくしてしまい、生産性を失ってしまうという、改めて文字にして見ると中々な病気に罹患してしまう時期の中でも、そのピークに当たる時期だ。
海や川でもないのに教室には無数の舟を漕ぎまくる人間が出現するという謎過ぎる現象が起き、ある意味では最も活力に満ちているはずの会社には、無数の気力をなくしたゾンビが出現する。
……いや、まぁ、実際はそんな大げさなものではないのだが、しかしどうやら、五月病というのは、人間だけが罹患する特有の病気というわけではないらしく、お天道さんも同様なのか、確か、梅雨の走りと言うんだっけ? 最近は雨こそ降っていないものの、出社だけはするサラリーマンのように一番中途半端な天気が続いている。
おかげで大量の紫外線を振りまいたり、水害を引き起こすこともなければ、代わりにビタミンDを与えることもなければ、農作物に水分も与えず、ダムの水も潤っていない。
しかも気象庁の発表によると大体これから梅雨の間までそういう天気が続くらしい。
やれやれ。
本当にいったい何をやっているのか。
人間がやる気をうしなっているんだからせめて天気くらいにはきちんと働いてほしいものだ。
「一番だらけておいてよく言うわね、今日も遅刻してきたくせに。もっとしゃきっとしなさい」
「いで」
いつもの朝の通学路。
何か特別なワクチンでも打っているのか、まだあの人々からやる気を吸い取る謎ウイルスに感染していない麗華は私の脇腹をつねってきた。おかげで目が覚める。流石、麗華。私の友達。常に私のことを考えていてくれる。
「馬鹿なこと言っていないでちゃんと起きる。いい? 5月は確かにそう気分になるのは否めないけれど、それでも五月病だからを言い訳にだらけていいってわけじゃないわ。分かったらちゃんと起きなさい。それに待たされるこっちの身にもなりなさない。その……友達なんだから……」
「友達だから、『先に行って』ってLINEしたんだけど。待たされるのが嫌なら先に行けばよかった……イデ!」
今度は脇腹をつねられ、更にぐりってやられた。『いで』という私の悲鳴も『イデ!』と気持ちカタカナに変容しているように思う。それが友達にする仕打ちかい?
――友達。
そう。私達は最近友達になった。いや、戻ったと言ったほうが正しいだろうか。
別に友達に戻るという概念があるのかは分からない。そもそも友達という概念がどういうものなのかさえ、私には分からない。
けど、あの日、一週間前のあの日、言葉の上では私達は『友達』になったということだけは確かだった。 まぁ、もっとも、友達になったからと言って特に変わったことはない。
ゴールデンウィークの間こそ、何度かお互いの家へ行ってゲームしたり勉強したりしたけれど、前の友達なのか微妙な期間の時と何か変わったかと訊かれれば、おそらく何も変わっていない。
むしろ五月病故か、私が朝よく遅刻したりするせいで、ちょくちょく会う機会が減っているからマイナスとも言えた。
「それで藤愛……、今週の土曜日なんだけど……暇? 良ければ藤愛の家に遊びに行っていい? ほら、友達なんだし……」
川沿いの道を終え、幹線道路沿いの歩行者自転車兼用の歩道へ渡る信号に引っ掛かったタイミングで、私に訊いてきたはずなのにもかかわらず、麗華は私ではなく明後日の方向を向きながら、そう切り出してきた。
……友達。
その言葉を、私は心の中で反芻する。
友達。
それは辞書を引けば、一緒に遊びに行ったり、話し合うことができる、親しく『対等』な人。
友達に戻った私は、友達として、麗華と遊びに行ける。
「…………」
「ん? どうしたの? 藤愛?」
返事が来ないことを訝しんだのか、麗華はこっちに顔を戻して私を見て来た。
私は少し悩んで答えることにした。
「いやあ、麗華。誘ってくれるのは嬉しいし、もちろん行くけけど……」
「……? 何よ?」
「その……新しい友達作るんじゃなかったの?」
「……!」
ガチャンという音が響いた。
麗華が踏んでいたサドルを踏み外した音だ。
慌てて足をサドルに戻そうとするも、再びずるっと足は地面に吸い込まれてしまう。
麗華はそもそも高校で新しい友達を作って、その子と遊ぶ時に失敗しないために、私を練習台にしていたはずだ。
だが、最近は友達に戻ったこともあってか、私ばかり誘っているような気がする。
「も、もちろんそっちも順調よ! ただ土曜日はたまたま暇だから藤愛を誘ってるだけ!」
「ほんとかなぁ」
その順調どころか噛み噛みな『順調』からは全く順調さを感じない。
大して売れていない映画や商品が『好評発売中』と宣うような響きがある。本当に売れているはずなら具体的な数字を出すはずだ。
「と、とにかく土曜日は来るのよ! それと放課後も一緒に帰るの! 友達に戻ったのだとしても、罰は続いているんだから来なくちゃいけないのよ? ……まぁ、どうしても外せない用事があるのなら別だけど」
「はいはい。それじゃまた放課後ね」
私は、必死に言い募る麗華に苦笑し、肩を竦める。
信号はまだ、青に変わってはいなかった。
ご一読ありがとうございました。




