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「それにしても、映画面白かったわね!」

「うんうん」

 映画が終わり、ちょっと書店に立ち寄った後、私たちは、結局なんやかんやあってポップコーンにまともに手をつけられずお腹が鳴る、どころか悲鳴をあげるようになってしまったため、昼ご飯にありつくべく、気持ち早足でフードコートに向かっていた。

 もちろんイオンなので、上層階の方へ行けばそれなりにこじゃれたレストランはある。

 しかし、あんなものは私から言わせれば邪道だ。イオンで昼食を取る時は必ずフードコートでなければならない。そう法律で決まっているのだ。だってほら、court(法廷)って言ってるし……。

「まさか、ホラー要素も兼ね備えたアクションで、しかも主人公も格好いいなんてね! さっき買った原作を読むのが今から楽しみだわ!」

 隣を歩く麗華は、最初はあれだけ怯(おびえ)ていたものの、落ち着いた後は、普通に映画を楽しめたのか、それだけではとてもそうはならないであろうくらいにテンションが上がっていた。

 ここまで麗華が手放しで感情を爆発させる光景は珍しい。

 どんなに面白い物を見ても、基本的に恥ずかしがり屋な麗華は感情を表に出すことを嫌うからだ。

 それだけさっきの映画が素晴らしかったということだろう。

 おそらく別の恋愛かファンタジー物の小説だろう、先程の書店でそれらと共に買われ、今、麗華の鞄の中にしまわれている原作の文庫本が物語っている。

 ……だから、まぁ、麗華の機嫌がいいのは映画だけが理由だろう。

 きっと。

「私はトリック? というか真相もよかったなぁ。まさか襲ってくる影が自分自身だったなんて」

 私は映画の内容を思い出しながら言う。

 映画の内容は、簡単にまとめると、主人公も属するとある高校生の仲良しグループがいて、彼らが一つの影のようなものに消されていく。何故影は彼らを襲うのか、主人公たちはどうやって影に対抗するのか、そういう話だった。

 一見すると影がものすごい悪役に映るが、実は映画の中の世界は主人公が死んだ後の世界で、主人公は自分が死んだことを認められず、死ぬ前の人生をやり直していた。それを主人公の死後の姿である影が、主人公に自らの死を認めさせるために、そのための精神力を与えるために、わざと影に抗わせるように仕向けていたというものだった。

 最後の全てを悟った主人公が拳銃で自殺する際言った、「この世に存在する全ての物は何一つ同じように再現することはできない。だから貴重なんだな」というシーンは説得力があって身につまされるものがあった。

 私の感想に、麗華は一度首を捻(ひね)ると、

「……ん。まぁ、確かにそうね。少しテンプレ感があったけれど、それも王道って感じがあってよかったわ」

「…………」

 ……テンプレだっただろうか。少なくとも私にはあまりそうは感じなかったけれど。それに麗華も王道を語れるほどホラーやミステリーを見ていなかったはずだが……まぁ、さっきの映画風に言うなら別に麗華と私は同一人物ってわけじゃない。違う感想があってもいいだろう。

 すっかり「高校で新しくできた麗華の友達」という設定を忘れ、映画の話で盛り上がりながら歩いていると、いつの間にかフードコートに辿り着いた。

 これまた散々行きつくした、とりあえずコレを使っとけばオシャレ且つエコに見えるだろうという思惑が透けて見える焦げ茶色の木目調の床。そして、同色の椅子と机が、木だけにこれでもかというほど林立して配置されている。

 だが、その木属性の群れの周りには、ラーメン、うどん、パスタ、たこ焼き、お好み焼き、かつ丼など、火を使った料理を提供する店がずらり。もし私が彼らの立場ならきっと生きた心地がしないだろう。ほぼキャンプファイアーで積まれる薪みたいなものだ。

「あ。あそこが空いてるわね。行きましょう」

 まず席を確保するべく、そんな火中の栗になった気分で(どっちかって言うと、飛んで火に入る夏の虫か?)連休故(ゆえ)にかなり埋まった座席の群れの中を歩いていると、目ざとく麗華が空席をみつけ、そう声をかけてくる。

 このイオンは吹き抜けになっていて、真ん中に近づけば近づくほど、日当たりが良く館内が良く見える。しかし、メインのフロアとの間に仕切りが挟まっているため、何度も行っていないと意外と見つけられない。そこはそんな二人用の席だ。

「いつもの席、空いててよかったね」

 麗華と共にそこに座って私が言う。

「……さぁ、なんのことかしら? それより、早く注文しに行ってきてよ。荷物が取られるかもしれないから二人一緒には行けないんだから」

「はいはい」

 私は席を立った。おお、怖い怖い。単に、中学の時、フードコートを利用する際は、ここに二人で座っていたという事実を言っただけなのに。

 とはいえ、徒(いたずら)に麗華を刺激するのも良くない。

 私はちょっと悩んで結局、いつも通りたこ焼きを食することに決め、店頭で注文し、順番が来たらブザーが鳴るやつ(未だに正式名称が分からない)を受け取り、席に戻る。

 麗華もどうせ中学の時と同様、うどんかラーメンだろうなぁと思って、私と入れ替わりで席を立った麗華を目で追っていたのだが、

「……?」

 しかし、あにはからんや、その反った背中はラーメンやうどん屋に向かうことはなく、やけにカラフルな色をした看板を掲げるパスタ屋さんへと向いていた。パスタ?

 麗華が注文を取り終え帰ってきた直後、私の方のブザーが鳴り、私がたこ焼きを持ち帰ったタイミングで、麗華の方もブザーが鳴り響いたので、ほとんど同じタイミングでの食事となる。

 手を合わせると私はさっそく、私は目の前でイカ墨パスタを行儀よくスプーンとフォークを駆使して行儀よく食べ出す麗華を見ながら、パスタだけに、さっきの疑問に食いつく。

「麗華がパスタなんて珍しいね。あの頃のラーメン大好き嵐さんはどこに行ったのさ」

 麗華は中学の頃、服同様、食事もかなり偏食的だった。

 給食は特に好き嫌いなく食べていたけれど、遊びに行く時は本当にラーメンとうどん以外食べている所を見たことが無かったくらいだ。

「あ、忘れてた。つい、イカ墨パスタってどんな味するのか、気になっちゃって」

「え?」

 冗談めかした私の問いかけに間断(かんだん)なくそう答えて来た麗華に、私は素(す)っ頓狂(とんきょう)な声を漏らした。

 前半の方はなんとなく意味を察せたけれど、それを言ったら麗華はまた唇を尖らせそうだから言わないけれど、しかし後半の方はよく意味が分からなかった。どういう意味だろう。

「あ……えっと、何でもないわ。まぁ、一緒みたいなものでしょ。うどんもラーメンもパスタも。同じ麺類なんだし」

「……いや、そのジャンルの区分けは結構無理があると思う」

 確かにパスタも彼ら同様麺類ではあるが、同じようなものかと言われると結構違うような気がする。いや、どこがどう違うのか説明しろと言われれば、確かに難しいけれど。

「えっと……あ、そう言えばさっき映画の原作買ったとき、それ以外の本も買ってたよね? 何のラブコメ小説とアクション小説買ったの?」

 なんとなく。

 なんとなく会話の雲行きが怪しくなったように感じた私はその靄(もや)を振り払うように、努(つと)めて声を明るくし、冗談めかして問いかけた。

 私の知る麗華は本の趣味も、専(もっぱ)ら小説で、そして映画同様、専ら恋愛かアクション系しか読まなかったはずだ。

 だが、

「藤愛って私のこと、恋愛とアクションしか読めない子供だと思ってるんじゃないでしょうね? これは新書よ。哲学の。さっきの映画で還元主義について触れてたでしょ? ちょっと興味が湧いたたから呼んでみようと思って」

「あ、そう……なんだ……」

「ええ。……どうしたの? 藤愛? こっちをぼーっと見つめて。もしかして、欲しいの? イカ墨パスタ」

「……あ、うん。一口もらえる? はい、あーん」

「それはあげる側が言う台詞でしょう? 仕方ないわね……」

 雑な口調ながら、麗華は丁寧な動作で黒く染まったパスタをフォークで多めに救い上げる。そのフォークをスプーンに落とし、くるくる綺麗にパスタをフォークに巻き付けると、若干頬を朱に染め、目を逸らしつつも「はい……あーん」と私の口元にそれを差し出してくれた。

 私は口を開け、歯と舌を使い、注意してフォークに絡みついたそれを剥いでいく、

 抜き取り終えると、よく噛んで、食べる。

 普通、「あーん」した後はおいしいかどうか相手に訊くものだと思うのだが、

「……」

 麗華はさっき私が口にしたフォークと、手元の自分のパスタに、視線を交互に彷徨(さまよ)わせている。

 そんな麗華を見て、私は微笑み、パスタをよく噛んで味わい、そして、あまり味のしなかったそのどす黒い物を飲み込んだ。 


ご一読ありがとうございました。

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