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きっかけは、一昨日のことだった。
「それでね。流ちゃんがね。ハリネズミカフェに行ったらしいんだ。なんでも猫カフェのハリネズミバージョンらしくて。最初はなんでそんな危ない生物をわざわざ触りに行くんだって思ったんだけど、でも、これが実際に写真見てみるととっても可愛いんだよ。だから、この前はちょっと予定が入ってていけなかったんだけど、今度一緒に行くんだ。すごい楽しみ」
疎遠になっていた、親友だった女の子、麗華と紆余曲折あって、学校の行き帰りを共にするようになってから、その翌日。
その日も、あの合流地点から麗華と一緒に自転車で川沿いを帰っていた私は、昼休みに流ちゃんに見せてもらった、流ちゃんの掌の中や、コップの中に小さく収まるハリネズミの写真を思い出しながら言った。
リアルな鼠、しかも針までセットということで、最初は何がいいんだそんなもんと思っていたのだが、まさかそんな鼠がまさかあれほどまでに可愛い生物だとは思わなかった。
回し車で遊ぶ姿なんて悶絶した。鼠というより針のあるハムスターみたいな感じだろうか。実際、ハリネズミは正式にはハリネズミ科に属する哺乳類で、ネズミではないらしいし。ちなみにハムスターはキアゲネズミ科に属する鼠らしい。わけわからん。
「ふうん……」
隣を走る麗華は、やや熱くなってしまった私の語りとは対照的に、冷たくそっぽを向いてそう答えた。
一瞬、久しぶりに話すようになってまだ一日しか経っていないから、どういうテンションでいればいいのか図りかねているのかなと思ったけれど、私はすぐに麗華がわざとそっぽを向いたのだと気付く。その証拠に、ちらちら視線が私と正面の間を反復横跳びのように行き交っている。
私は自転車がギリギリ接触しないぐらいまで麗華に近づき、そっと肘で麗華の脇を小突いて、
「何々? やっぱり麗華も行きたいの? いいよ。興味ない振りなしなくても。麗華が実は可愛い物が好きなのは分かってるし」
「べ、別にそんなんじゃないわよ。私があんまり動物に好かれないこと、藤愛なら知ってるでしょ。それに、私が行ったら気まずくなるだけでしょうし……ただ、熊友さんだったかしら? あの変わった子と、もうそんなにも仲良くなったんだって思っただけ」
何故か若干唇を尖らせながらそう言う麗華。
あの変わった子、と麗華が言ったのは私が流ちゃんの珍行動珍発言を麗華に言って聞かせているというだけではなく、麗華が実際にさっき流ちゃんと会って少しばかり会話したからだろう。
麗華との合流地点は、私にとって流ちゃんとの別れるポイントでもある。そこでさっきせっかくだからということでお互いに少し会話をしてもらったのだ。
……まぁもっとも、想像通りというかなんというか、まるで馬が合わない、どころか、お互い落馬してそうな空気だったのだけれど……。普通の人間とすらまともにコミュニケーションを取ることを許さない麗華に、そもそもまともなコミュニケーションを取る気などさらさらない流ちゃん。
考えてみれば、馬が合うなどと期待するのは無駄なことだったかもしれない。馬だけに。
「でも、そうね……」
と、そんな馬鹿なことを考えていると、私の肘をバシンとはたき落とした麗華は左手の親指と人差し指でその小さくとがった自分の顎をつまんで、呟く。
それから若干、またしても視線を彷徨わせ、何やら逡巡するような間を置いてから、
「……いざ友達ができた時のために、どこかに遊びに行っておくっていうのはいいかもしれないわね」
私は、今度は肘で小突くなんて生易しいものじゃなく、麗華の華奢な左肩を右手でバンと叩いた。
「ちょ……! 痛いわね! 川に落ちたらどうするの!」
「大丈夫、落ちない程度に叩いてるから。いやー別に? ただ、遊びに行きたいならそう言えばいいのにって、そう思っただけ」
「べ、別に、私は行きたいだなんて……それに、遊ぶんじゃなくて、練習よ。あくまで瀬城で友達ができて一緒に遊ぶってなった時のための練習に、藤愛に付き合ってもらうだけで……」
「ふーん。でも、私は行くとは言ってないけど?」
「え?」
「だって、登下校を一緒にすることは了承したけど、そこまで承諾した覚えはないし。それに、私だって休日はちゃんと友達と遊びたいし」
流石にこれは麗華も看過できなかったらしい。
麗華は、矢庭に、無言で私のママチャリの籠をつかむと前後に揺さぶってきた。
「ちょ!? 麗華、危ないって! 川に落ちる!」
どの口が言っているんだと、内心でツッコみながら、慌ててブレーキをかける私。そんな私に構うことなく、麗華は先に行ってしまう。
どんどんどんどん背中が小さくなっていく。
が、10メートルほど走ったあたり。
自転車を止めて、麗華は振り返り、柳眉を逆立て、一方的に告げて来た。
「とにかく昭和の日、11時にバス停集合ね。いい? 前も言ったけど、これは罰だから、藤愛は来なくちゃいけないの? 分かったわね?」
そして、呆然と佇む私を残して、だいたいさっきよりも2倍速ぐらいのスピードで自転車と瀬城のセーラー服が去っていく。
そこから麗華が左折し、後ろ姿が見えなくなったあたりで私はようやく我に返る。
そして、肩を竦め、一人、呟いた。
「ま、罰なら、仕方ないか」
ご一読ありがとうございました。




