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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第9章 倒さない選択
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第6話 狙うべき場所

フォリアからある程度離れたところで、私はガラスペンを下ろした。


幹につけた傷は、離れたここからでも見える。同じ場所に二度赤を当て、かなり深くまで崩した。それでも、フォリアの巨体から見れば、傷はほんの一部にすぎない。


「幹を削り続けても、フォリアは止められそうにありません」

「うん。別の方法を考えた方がよさそうだね」


左手の地面が、こちらへ向かって筋状に盛り上がった。

リリカが右へ駆け出し、私たちも後を追う。直後、土を割って現れた太い根が、さっきまで私たちがいた場所を通り抜けた。


最初に比べると、迫ってくる根の速度は落ちている。

何本も崩したあたりから、フォリアの動きにも変化が出ていた。


けれど、根をこれ以上壊すのはやめると決めた。


追ってくる根との距離を取りながら、私はフォリアの上半身を見る。

ザロスは、身体を削っても倒れなかった。


最後に青を集中させたのは、胸にあった赤い核だ。


「ザロスは胸に核がありましたよね。フォリアにも、どこかに同じようなものがあるかもしれません」


けれど胸にあたる場所は、遥か頭上にある。

セレンもフォリアを見上げた。


「あるとしても、ここからじゃ確かめられないね」


これまで地上から狙えたのは、根と幹の下の方だけだ。

もし胸の辺りにあるなら、幹を削り続けても核は見つけられない。


だが問題は高さだ。

地上からでは、フォリアの胸元まで赤が届くか分からない。


周囲には、何本もの木が立っている。


「木に登れば、胸元まで赤が届くかもしれません」


ロアも周囲の木を見回す。


「木に登るのは危ない。根が来てもすぐには逃げられないし、周りを塞がれたら降りることもできなくなる」


フォリアの近くで、わざわざ身動きの取りにくい場所へ行くのは危険すぎる。

リリカは周囲の木々ではなく、さらに先へ目を向けた。


「木に登らなくても、高い場所ならあるよ」


腰の双眼鏡を取り出し、右手の森を覗く。

しばらくして、右前方を指した。


「あそこ。前に帰り道を探して歩き回ったとき、見晴らしがよさそうだと思って目をつけてた場所」


森の中で、地面が緩やかに盛り上がっている。

丘と呼ぶには小さいが、今いる場所よりは高い。


「世界樹からは少し離れるけど、あそこまで上がれば胸元との高低差は小さくなる。木の上と違って、根が来ても走って逃げられるしね」


あの高さで赤が胸元まで届くかは分からない。

それでも、試してみる価値はありそうだ。


「なら、あそこへ行きましょう」


リリカが先頭に立ち、丘へ向かって走り出した。


     ◇


丘まで真っすぐ進むことはできなかった。

地表に張り出した太い根を避けながら、根の見えないところを選んで進む。


「左から行くのはやめとこう」


リリカが進路を変えた直後、左側の土が押し上げられる。

根が姿を現し、こちらへ向きを変える。


最後尾のロアが振り返った。


「まだ距離がある。丘まで急ごう」


速度を落とさず、そのまま丘へ向かって走り続ける。

前方を別の根が塞いでいる。迂回すれば、後ろから迫る根に追いつかれる。


リリカは根の先端近くをかすめるように走った。


「遠回りしてたら追いつかれる。このままここを抜けるよ」


セレン、ロアの順に狭い隙間を通る。

私も後に続こうとした瞬間、横たわっていた根の先端が持ち上がった。


道が塞がれる。

背後では、根が土を擦る音がすぐそこまで迫っていた。


もう避けられない。

私はガラスペンに赤を引き出すと、持ち上がった根へ放った。


赤が当たった部分に亀裂が走り、道を塞いでいた根が崩れる。

開いた隙間を抜け、そのまま丘へ向かう。


緩やかな斜面を走って登り、頂上近くまで来たところで、リリカが足を止めた。

振り返ると、木々の隙間越しにフォリアの上半身が見える。


胸元も見える。


地上にいたときより距離はあるが、ここからなら木々に遮られず、フォリアの胸元まで狙える。

私はガラスペンを、フォリアの胸へ向けた。


「ぎりぎりですが、ここからなら届くかもしれません」


セレンがフォリアへ目を向け、距離を測るように見つめる。


「まずは胸の辺りを崩してみよう。核があるなら、確認できるはずだ」


丘の下で、土がゆっくりと持ち上がった。

追ってきた根が丘の斜面へ向かっている。


迷ってはいられない。

フォリアの胸へ狙いを合わせ、赤を引き出す。


私はガラスペンを振った。


放たれた赤が木々の間を抜けていく。

胸まで届いた。


幹に当てたときほど大きくは崩れない。

それでも、フォリアの上半身がゆっくりと後ろへ傾いた。


丘へ伸びてきていた根も、斜面の途中で動きを止めた。

私はガラスペンを握ったまま待った。


挿絵(By みてみん)


少しして、根が再び動き始めた。

フォリアの身体も、ゆっくりと元の位置へ戻っていく。


幹を削ったときには見られなかった反応だった。

私はもう一度、フォリアの胸へガラスペンを向けた。

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