第5話 赤の限界
追ってきた根が、地面を擦るように伸びてくる。
「右、こっち!」
リリカが先に走り、地面から露出した根を避ける。
私たちも後に続く。背後から迫っていた根は大きく曲がってきたが、すぐには追いついてこない。何本もの根を崩してから、フォリアの動きは明らかに鈍くなっている。
前方では、別の根が地面を押し上げ始めている。
「前は通れない。右へ回ろう」
ロアが言った。
リリカは足を止めず、さらに右へ進路を変える。
「こっちはまだ通れるよ!」
盛り上がった地面を避けながら、世界樹の足元へ回り込んでいく。
根への攻撃をできるだけ避けると決めてから、私たちは動き方をそれまでと変えた。
迫ってくる根を赤で崩して道を開くのではなく、傷つけずにかわしながら進む。
それでも、逃げ続けるためにここまで来たわけではない。
何とかこの間に止める方法を見付けないといけない。
見上げると、フォリアの身体は視界の上まで続いていた。枝が広がっているあたりはあまりにも高く、今いる場所からガラスペンで狙える距離ではない。
届きそうなのは、太い幹のさらに下の方だけだ。
「リリカ、もう少し近づける?」
「右からなら。根が出てない場所がまだあるね」
リリカが指した先には、幹の近くまで土が見えている場所が残っていた。
ロアが先に進む。
「行けるけど、そこも長くは留まれない」
セレンも後に続いた。
私が最後に駆け込んだ直後、少し離れた場所で地面が盛り上がった。
ガラスペンを握り直し、目の前の幹へ向ける。
狙うのは根ではない。
フォリアの幹だ。
赤を引き出す。
ガラスペンの先から放った赤が幹へ当たった。
幹の表面に亀裂が走り、その周囲が崩れ落ちる。亀裂はさらに奥まで伸びていた。
でも、崩れたのは一部だけだ。
巨大な幹全体を見れば、わずかな傷にしかならない。
フォリアの身体がゆっくりと傾いた。
「来るよ!」
リリカの声と同時に、左側の地面が持ち上がる。
私たちは幹から離れた。
土を押しのけて現れた根が、さっきまで立っていた場所を横切る。
動きは遅くなっていても、避けながら赤を打ち続けるのは難しい。
「こっちへ回ろう」
ロアが根の外側へ走る。
根が向きを変えてくる前にすぐに移動を始め、四人で再び幹が見える位置まで回り込んだ。
さっき赤を当てた場所が見える。
亀裂は、少し離れたここからでもはっきり分かった。
私はもう一度、同じ場所を狙った。
放った赤が亀裂の入った部分に当たる。
亀裂がさらに広がり、幹の一部が大きく崩れた。
頭上で枝葉が激しく擦れ合う。
フォリアの巨体がわずかに傾き、足元の地面が揺れる。
それでも、倒れる様子はない。
間近では大きく崩れたように見えたが、少し離れてフォリア全体を見上げると、幹の下にできた小さな傷にしか見えない。
「もう一度、同じところを狙えそう?」
セレンが幹を見ながら言った。
「やってみます」
ガラスペンを向けようとしたところで、ロアが腕を伸ばした。
「待て。右から来る」
振り向く。
露出した根の向こうで、また地面が盛り上がっていた。
「いったん下がろう!」
リリカが走り出す。
私たちも根が現れる前にその場を離れた。
直後に土が割れ、太い根が斜めに伸びてくる。
前方にも別の根があり、通れる隙間がなくなっていた。
「左から抜けよう」
ロアが先に走る。
セレンとリリカが続き、私も根と根の間へ飛び込んだ。
背後から、地面を擦る音が近づいてくる。
出口へ向かう途中、別の根の先端が横から入り込んできた。
避けるには間に合わない。
私はガラスペンを振った。
赤が根へ当たり、亀裂が深く広がる。
迫っていた根が途中から崩れ、目の前に道が開いた。
四人でそこを抜ける。
十分に距離を取ってから、私は振り返った。
また根を傷つけてしまった。
けれど、あのままでは避けられなかった。
「今のは仕方ないよ」
リリカが言った。
私はうなずき、ガラスペンを持ち直した。
少し離れた場所から、もう一度フォリアを見上げる。
幹にも根にも、何度も赤を使っている。
赤はフォリアに通っている。それは間違いない。
けれど、地上から狙える範囲はあまりにも限られていた。
フォリアの上半分は遥か高く、枝の奥まで見通すことさえできない。
届く場所に攻撃し続けたところで、それではフォリアを止められそうにない。
「幹を攻撃し続けても、止められるか分からないね」
セレンが言った。
ロアはフォリアを見上げたまま答える。
「ああ」
私はガラスペンを下ろした。
根はできるだけ残したい。
けれど、根を避けて幹を攻撃しても、フォリアを止められそうになかった。
赤という手段を得ても、まだ状況を打開できていなかった。




