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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第9章 倒さない選択
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第5話 赤の限界

追ってきた根が、地面を擦るように伸びてくる。


「右、こっち!」


リリカが先に走り、地面から露出した根を避ける。


私たちも後に続く。背後から迫っていた根は大きく曲がってきたが、すぐには追いついてこない。何本もの根を崩してから、フォリアの動きは明らかに鈍くなっている。


前方では、別の根が地面を押し上げ始めている。


「前は通れない。右へ回ろう」


ロアが言った。

リリカは足を止めず、さらに右へ進路を変える。


「こっちはまだ通れるよ!」


盛り上がった地面を避けながら、世界樹の足元へ回り込んでいく。


根への攻撃をできるだけ避けると決めてから、私たちは動き方をそれまでと変えた。

迫ってくる根を赤で崩して道を開くのではなく、傷つけずにかわしながら進む。


それでも、逃げ続けるためにここまで来たわけではない。

何とかこの間に止める方法を見付けないといけない。


見上げると、フォリアの身体は視界の上まで続いていた。枝が広がっているあたりはあまりにも高く、今いる場所からガラスペンで狙える距離ではない。


届きそうなのは、太い幹のさらに下の方だけだ。


「リリカ、もう少し近づける?」

「右からなら。根が出てない場所がまだあるね」


リリカが指した先には、幹の近くまで土が見えている場所が残っていた。

ロアが先に進む。


「行けるけど、そこも長くは留まれない」


セレンも後に続いた。

私が最後に駆け込んだ直後、少し離れた場所で地面が盛り上がった。


ガラスペンを握り直し、目の前の幹へ向ける。


狙うのは根ではない。

フォリアの幹だ。


赤を引き出す。


ガラスペンの先から放った赤が幹へ当たった。

幹の表面に亀裂が走り、その周囲が崩れ落ちる。亀裂はさらに奥まで伸びていた。


でも、崩れたのは一部だけだ。

巨大な幹全体を見れば、わずかな傷にしかならない。


フォリアの身体がゆっくりと傾いた。


「来るよ!」


リリカの声と同時に、左側の地面が持ち上がる。

私たちは幹から離れた。


土を押しのけて現れた根が、さっきまで立っていた場所を横切る。

動きは遅くなっていても、避けながら赤を打ち続けるのは難しい。


「こっちへ回ろう」


ロアが根の外側へ走る。

根が向きを変えてくる前にすぐに移動を始め、四人で再び幹が見える位置まで回り込んだ。


さっき赤を当てた場所が見える。

亀裂は、少し離れたここからでもはっきり分かった。


私はもう一度、同じ場所を狙った。


放った赤が亀裂の入った部分に当たる。

亀裂がさらに広がり、幹の一部が大きく崩れた。


頭上で枝葉が激しく擦れ合う。

フォリアの巨体がわずかに傾き、足元の地面が揺れる。


それでも、倒れる様子はない。

間近では大きく崩れたように見えたが、少し離れてフォリア全体を見上げると、幹の下にできた小さな傷にしか見えない。


挿絵(By みてみん)


「もう一度、同じところを狙えそう?」


セレンが幹を見ながら言った。


「やってみます」


ガラスペンを向けようとしたところで、ロアが腕を伸ばした。


「待て。右から来る」


振り向く。

露出した根の向こうで、また地面が盛り上がっていた。


「いったん下がろう!」


リリカが走り出す。

私たちも根が現れる前にその場を離れた。


直後に土が割れ、太い根が斜めに伸びてくる。

前方にも別の根があり、通れる隙間がなくなっていた。


「左から抜けよう」


ロアが先に走る。

セレンとリリカが続き、私も根と根の間へ飛び込んだ。


背後から、地面を擦る音が近づいてくる。

出口へ向かう途中、別の根の先端が横から入り込んできた。


避けるには間に合わない。

私はガラスペンを振った。


赤が根へ当たり、亀裂が深く広がる。

迫っていた根が途中から崩れ、目の前に道が開いた。


四人でそこを抜ける。

十分に距離を取ってから、私は振り返った。


また根を傷つけてしまった。

けれど、あのままでは避けられなかった。


「今のは仕方ないよ」


リリカが言った。

私はうなずき、ガラスペンを持ち直した。


少し離れた場所から、もう一度フォリアを見上げる。

幹にも根にも、何度も赤を使っている。


赤はフォリアに通っている。それは間違いない。

けれど、地上から狙える範囲はあまりにも限られていた。


フォリアの上半分は遥か高く、枝の奥まで見通すことさえできない。

届く場所に攻撃し続けたところで、それではフォリアを止められそうにない。


「幹を攻撃し続けても、止められるか分からないね」


セレンが言った。

ロアはフォリアを見上げたまま答える。


「ああ」


私はガラスペンを下ろした。

根はできるだけ残したい。


けれど、根を避けて幹を攻撃しても、フォリアを止められそうになかった。

赤という手段を得ても、まだ状況を打開できていなかった。

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