第3話 赤の反応
迂回した先で、私たちは前に通った道へ戻った。
それから何日か、森の奥へ進み続ける。以前ロアが緑を奪った跡は目印になったものの、灰色の土がそのまま残っている場所は少ない。道の両側が再び緑に染まり、前より境目が分かりにくくなっていた。
完全に道が塞がれた場所では、ロアが足元の緑を奪う。
人が通れるだけの道ができると、リリカが先へ進む。
「これだけの幅があれば十分だよ。帰りも通れる」
「ああ」
ロアもリリカの後に続き、私たちは切り開いた道を抜けていった。
ある日の午後、森の奥で見覚えのある岩場へ出た。
前に世界樹から逃げたとき、足を休めた場所だ。
その岩場を越えると、緑の領域が眼前に一気に広がる。
地面だけではない。
木々にも緑が広がり、灰色だった森は広い範囲が緑に染まっていた。
その中を進んでいくと、木々の向こうに世界樹が見えた。
他の木とは比べものにならないほど太い幹で、人の上半身のように見える姿も、前に来たときと変わっていない。
リリカが足を止めた。
「ここからは、戻る道を先に確保しておいた方がいいね」
前に世界樹へ近づいたときは、根に退路を塞がれかけた。
ロアが足元の緑を奪い、来た方向へ戻れるだけの道を作りながら逃げた。
リリカはロアが作った道を確認する。
「何かあったら、この道を通って戻る。森の中へ逃げ込まないでね」
「分かった」
私は鞄からガラスペンを取り出した。
透明な軸の中には、ロアから引き出した赤が残っている。
前にここへ来たときは、どの色を引き出すか選べなかったし、
ロアから引き出した青をフォリアへ当てたものの、効果はなかった。
だけど今は、赤を選んで引き出すことができる。
リリカを先頭に、私たちは世界樹へ近づいていった。
しばらく進むと、また足が重くなったように感じる。
前に世界樹へ近づいたときにも感じた重さだ。
私たちの歩く速度は、少しずつ落ちていく。
「世界樹の近くに長居はしない方がいいね」
世界樹の顔が、こちらを向いた。
「来るよ」
リリカが言った直後、前方の土が持ち上がり、太い根が地面を割って飛び出す。
私は横へ動き、迫る根をかわした。
根は地面を叩き、土が跳ねる。続けて、別の根が左から伸びてきた。
私はロアから赤を引き出すことに集中した。
赤が透明な軸へ入ってくる。
迫る根へ向けてガラスペンを振る。
赤が根へ走る。
赤に触れたところから亀裂が広がり、こちらへ伸びていた先端が崩れながら地面へ落ちていった。
落ちた根は形を保てず、そのまま崩れていく。
「ユイナ、まだ来るよ!」
リリカの声と同時に、別の場所で地面が盛り上がる。
今度は二本同時だった。
一方は正面からロアへ伸び、もう一本は右側から回り込んでくる。
ロアは正面から来た根をかわす。
右から伸びてきた根は、世界樹へ向かおうとする私たちの進路を塞ごうとしている。
私はもう一度赤を引き出し、右から来る根へ放った。
赤が当たると、根に亀裂が広がり、太い根は折れ、先端が崩れながら地面へ落ちる。
ロアがかわした根は、まだ地面を這って動いている。
セレンが言った。
「なるべく根を壊すのは避けよう。道を塞がれたときだけ赤を使って崩す」
リリカは周囲を見回し、根が伸びてきていない方を指した。
私たちはそちらへ進路を変える。
足元の土が押し上げられ、また根が姿を現した。
今度の根は前方を横切ったが、リリカはその手前で左へ進路を変えた。
世界樹へ近づくほど、地面の下で動く根が増えていく。
土が持ち上がり、根が現れるたびに、リリカが進む方向を変える。
避けられないときは、私が赤を使った。
世界樹は立ったまま、目を開いてこちらを見ている。
赤は通る。
それだけは、もう疑いようがなかった。
けれど、一つ崩しても別の根がすぐに伸びてくる。
私たちは次々に現れる根を避けながら、世界樹へ近づいていった。
前方の地面を押し上げながら、根が迫ってくる。
「右へ!」
リリカが走り出す。
私はその後を追った。
すぐ横から根が飛び出した。
ロアがかわし、セレンも一歩遅れて身を引く。
私は顔を上げた。
木々の向こうに見えていた世界樹は、もう見上げても全体が視界に収まらないほど近くにある。
その足元で、また地面が動いた。




