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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第9章 倒さない選択
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第2話 再び世界樹へ

ガラスペンの軸に刻まれた赤を、セレンがしばらく見つめていた。


「町長の依頼、受けよう」


セレンが顔を上げる。


「赤は選んで引き出せるようになった。あとは、文香の記録どおりフォリアに通るか確かめたい」


ザロスのときは、通る色である青で赤の核を崩すことができた。フォリアに対しても同じことができるとは限らないが、赤を試す理由はある。


昨日は町長への返事を決められなかった。今は、フォリアに対して使う色が決まっている。


     ◇


宿を出たあと、リリカに話した。


「もう一度、世界樹まで行くことにしました」

「分かった。私も行くよ」


リリカはすぐに答えた。


「森の中は、前に通ったときと変わってるかもしれないからね」


その可能性はある。世界樹からミレヴァへ戻る途中にも、以前は通れた道が緑に覆われているのを何度も見た。


四人で町長のところへ向かう。

昨日と同じ部屋に入ると、町長が机の上の書類から顔を上げた。


「決まりましたか?」

「昨日の依頼、引き受けます。もう一度、世界樹まで行ってきます」


町長はしばらく私たちを見たあと、頷いた。


「そうですか。頼みます」

「出発は明日の朝にする。今日は食料とか道具を揃えておきたい」


リリカが言うと、町長はすぐに応じた。


「食料なら町で用意します。ほかに必要なものはありますか?」

「道具はこっちで準備する。今のところ、ほかは大丈夫」


「分かりました。必要になったら言ってください」


部屋を出ると、リリカは市場の方を見ながら、


「私は矢を補充してくる」


そのまま市場へ向かうリリカと別れ、私たちは宿へ戻った。

しばらくして戻ってきたリリカが、前回使った地図を広げる。


「心配なのは、森の奥に入ってからだね」


地図の上をなぞる指が、世界樹へ向かう道をたどっていく。


「帰りはロアが道を切り開いてくれた。でも、その道が今も通れるとは限らない」

「緑が前より広がってたら、迂回も考えよう。無理に同じ道を通る必要はないからね」


そう言って、リリカは地図を畳んだ。

前回は文香さんの足取りを追って世界樹へ向かった。


今度は、森の侵食を止める方法を探すために、フォリアのもとへ戻る。


     ◇


翌朝、私たちはミレヴァの北門を出た。

先頭はリリカ。その後ろをロアとセレンが進み、私もあとに続く。


北門を離れてしばらくは、前回と大きく変わったところはなかった。道の両側に灰色の草が続き、その先には森の木々が重なって見えている。


森が近づくにつれ、灰色の景色に緑が現れ始めた。最初は道端に点々と見える程度だった。けれど進むほど緑の範囲は広がり、森の入口に着く頃には、道の端まで緑に覆われていた。


「ここまで広がって来てるね」


リリカが足を止める。

前に森へ入ったとき、この辺りの道にはまだ灰色が残っていた。今は道の両端まで緑が広がっている。


「私たちが町に戻ったあとも、侵食が進んでたってことですか?」

「そうみたいだね。一刻も早く何とかしないと」


森の中へ入った。

しばらくは道を見失うほど緑に侵されてはいなかった。けれど、奥へ進むにつれて地面や木々を覆う緑が増え、道の輪郭も少しずつ分かりにくくなった。


リリカが腰のナイフを抜く。


「ここ、前はこんなのなかったよ」


行く手を横切る細い蔓を切る。蔓の向こうにも、地面を覆う緑が続いていた。

少し先を歩いていたロアが足を止める。


「ここだ」


追いついて見ると、道の一部だけ周囲より緑が少ない。

前回、ロアが道を切り開いた場所だった。


けれど、あのときより歩ける幅は狭くなっている。

前は灰色だった道に緑が広がり、通れる幅が狭くなっていた。


「帰るときは、もっと広かったよね」

「うん」


リリカがしゃがみ、地面を確かめる。


「ロアが作った道に、また緑が入り込んできてる」


ロアは道の先を見た。


挿絵(By みてみん)


「また作ればいいだけだ」

「まだ待って」


リリカが立ち上がる。


「こっちなら、ロアが緑を奪わなくても進める。もっと奥で道が塞がれてたら、そのときは頼むよ」


ロアは何も言わず、道の端から離れた。

私たちは狭くなった道を一列で進んだ。


前に通った場所だから、進む方向は分かる。それでも、同じ道には見えない。木の根元や岩の隙間にまで緑が広がり、ところどころ道の中へ入り込んでいる。


しばらく進んだところで、リリカがまた立ち止まった。


「こっちを進むのは無理だね」


前方では、道の半分以上まで緑が広がっていた。

前回は、道を外れずに通れた場所だ。


リリカは地図を取り出し、周囲と見比べた。


「少し遠回りになるけど、右に迂回すれば通れる」


私たちは道を外れ、リリカのあとについて迂回した。

世界樹から戻るときに使えた道にも、緑が広がり始めている。


赤は使えるようになった。


けれど、フォリアに使えばどうなるのか。そこまでは、文香さんの記録にも書かれていない。

答えは、世界樹まで戻って、確かめるしかなかった。


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