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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第6章 禁足地の丘
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第12話 私の世界の誰かへ

アルディナを出る前に、私はもう一度、町の掲示板へ向かった。

朝から人の出入りが多く、掲示板の前では何人かが貼られた紙を見ている。私には、そこに書かれた文字が読めない。仕事の募集なのか、町からの知らせなのかさえ分からなかった。


人が減るのを待ち、鞄から昨夜、宿で書いた紙を取り出す。


挿絵(By みてみん)


『この文字を読める人へ。

私は三島唯奈といいます。

私はこの世界とは別の世界から来ました。

赤の始原ザロスは倒しました。

元の世界へ帰る方法を探しています。

この文字を読める人、帰る方法を知っている人がいたら、何か分かる形で知らせてください。

私はこれからアウレスタ大陸へ向かいます。

三島唯奈』


内容を読み返し、掲示板の空いている場所へ貼った。

文香さんに届くとは限らない。アルディナへ戻ってくるかどうかも分からない。

でも、この文字を読める他の誰かがここを通る可能性はある。


「これでいいのか?」


隣に立つロアが掲示板を見る。


「はい。少なくとも、私がここに来たことは残せました」


ロアには紙の内容は読めない。それでも何も聞かず、剥がれかけていた端を指で押さえてくれた。

私は最後にもう一度、自分の名前を見てから掲示板を離れた。


     *


ネレイ港に着いたのは、それから数日後だった。

初めて訪れたときとは違い、今度は三人で船着き場へ向かう。

海には何隻もの船が浮かび、桟橋では荷物が次々と運び込まれていた。船員たちの声に、木箱を置く音が重なる。


私たちが乗る船も、すでに出航の準備を進めていた。

乗船口の少し手前で、リゼルが立ち止まる。


「私はここまでね」


分かっていたことなのに、実際に聞くと寂しかった。


「本当に行かないんですね」

「うん。まだ弟たちのことが何も分かってないから」


リゼルは港の外へ続く道へ目を向けた。


「まず北のミレア町を調べる。それからフェルド村にも行ってみるつもり」

「二人の手掛かりがそこに?」

「あるかどうかは分からないけどね。ザロスが倒れて王城の先へ行けるようになったから、一度行っておきたい」


ザロスは倒した。

だが、グレンさんとフィンさんが見つかったわけではない。エルガ王城にも、二人の行方を示すものはなかった。

リゼルにとっては、まだ何も終わっていない。


「無理はしないでくださいね」


私が言うと、リゼルは少し笑った。


「それ、ユイナに言われるとは思わなかった」

「どういう意味ですか?」

「ローデン丘でザロスと戦った人に言われてもね」

「私だって、好きで怪我をしたわけじゃありません」


左肩に手を添える。

傷は縫ってもらい、痛みもかなり減った。だが、服の下では皮膚の一部が灰色に変わったままだ。

リゼルも一度、私の肩へ目を向けた。


「肩のこと、向こうで何か分かるといいね」

「はい。でも、アウレスタへ行く一番の理由は文香さんです」


病院で医者から聞いた話を思い出す。

文香さんが診察を受けたとき、同じ病院にセレンという医者がいた。セレンは、珍しい色をした文香さんに興味を抱き、やがて彼女と一緒に旅へ出た。


そのセレンさんが、今はアウレスタ大陸にいる。

二人が途中で別れたとは聞いていない。


「セレンさんのところに、文香さんもいるかもしれません」


これまで見つけたのは、文香さんが残したメモや、彼女を知る人から聞いた話だけだった。

今度は、文香さんと行動している人の居場所が分かっている。そこへ行けば、本人に会えるかもしれない。


「会えるといいね」

「はい」


船から乗船を促す声が聞こえた。

もう時間らしい。

私はリゼルへ向き直る。


「リゼルさん」

「なに?」

「今まで、ありがとうございました」


リゼルが少し目を見開いた。


「急にどうしたの」

「船に乗る前に、言っておきたくて」


ガルダ村まで案内してもらった。私には読めない文字を読んでもらい、ザロスを追い、王城まで一緒に来てくれた。


「こっちこそ。二人がいなかったら、私はまだ港で弟たちを待ってるだけだったと思う」


そう言ってから、リゼルはロアを見る。


「ロアも、ありがとう」

「ああ」


船員から、もう一度声をかけられた。


「行きましょう」


私とロアは乗船口へ向かった。

桟橋から船へ渡り、甲板へ上がる。振り返ると、リゼルはまだ同じ場所に立っていた。


私が手を振ると、リゼルも大きく振り返した。

船が動きだし、桟橋との距離が少しずつ開いていく。


「また会いましょう!」

「うん! ユイナも気をつけて!」


リゼルの声が遠ざかる。

私はしばらく甲板に立ち、離れていくネレイ港を見ていた。隣ではロアが海を眺めている。


「アウレスタに着いたら、セレンさんの住所を訪ねましょう」

「ああ」

「文香さんも、そこにいるといいんですけど」


今度こそ、残されたメモではなく、文香さん本人に会えるかもしれない。

ネレイ港の建物は次第に小さくなり、やがて見えなくなった。

船はアウレスタ大陸へ向かって進んでいく。


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