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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第6章 禁足地の丘
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第7話 崩れる赤

ザロスが肩から大剣を下ろす。


ロアは足を止めず、昨日の石積みを越えた。

私もその後を追う。


ザロスがこちらに向かって歩き出す。

人の三倍ほどある巨体が近づくにつれ、握られた大剣の大きさが実感できる。あれで切られたらお終いだろう。


ロアが前を向いたまま言う。


「俺から離れすぎるなよ」

「はい」


ロアから青を引き出せなければ、私は何もできない。

でも、近づきすぎればザロスの剣が私に届いてしまう。


ロアとの距離を保ちながら、ガラスペンを握った。


ザロスが大剣を持ち上げる。


「右へ」


ロアが駆け出し、私も続いた。


振り下ろされた大剣が石畳を砕き、破片を跳ね上げる。

ロアはザロスの右側へ回り込み、私はさらに外側を走った。


ザロスがロアを追って向きを変える。


速い。


あの巨体からは想像できないほどの速さで、大剣がロアを追う。

ロアは間合いを詰めた。


横薙ぎに振られた大剣を身を低くしてかわし、そのまま懐へ入る。


伸ばした右手でザロスの腕に触れる。

ザロスの腕を覆っていた赤が帯のように引き出され、ロアへ流れ込んでいく。


「今だ!」


足を止め、ロアの中から青を引き寄せる。

ここなら届く。


振り抜いたガラスペンから青が放たれ、ザロスの右腕へ走った。

ロアが赤を奪った場所へうまく当たってくれた。


右腕の表面が、昨日よりも深く崩れていく。

右腕の外側が大きく崩れた。


「ロア!」


ザロスが大剣を返す。

ロアは後ろへ跳び、目の前を通り過ぎる刃をかわした。


私もロアの動きに合わせて横へ走る。


ザロスが追ってきた。


「下がるぞ!」

「はい!」


ロアとともに距離を取る。


何歩か追ったところで、ザロスは大剣を構え直した。

崩れた右腕は回復していない。北境の砦で見た青の時とは違う。


「昨日より崩れてますね!」

「ああ」


作戦は間違っていない。

青だけを当てた昨日より、確実に深く削れている。


ロアが左へ動き、私もついていく。

ザロスが追うのはロアだ。

私ではなく、より近くにいるロアを狙っている。


踏み込みと同時に、大剣が斜めに振り下ろされた。

ロアは横へかわし、その勢いのままザロスの背後へ回ろうとする。


私はロアとは逆に、少し外側へ膨らんだ。

この位置からだと、ロアが赤を奪った場所を狙えない。


さらに動いて位置を変える。


背後へ迫ったロアが右手を伸ばすと、ザロスの背中から赤が引き出された。

その部分が崩れていく。


ガラスペンを向けたが、射線上にはロアがいた。


「ロア、避けて!」


ロアが横へ抜ける。

すぐに放った青がザロスの背中へ命中し、赤が奪われた部分は大きく崩れた。


ザロスの上体が前へ傾いた。

倒れる寸前で大剣を地面に突き立て、巨体を支える。


「まだ来るぞ!」


ロアが走り、私もその場を離れる。

振り向きざまに薙がれた大剣が、近くの岩を捉えた。


刃が触れた場所から赤が広がり、岩の縁が薄くなって形を失っていく。


あそこに立ち止まっていたら、私もああなる。

ロアは岩の反対側へ抜けている。


追わなければ。

走っても、ロアとの距離は開いていく。

ロアの中にある青を引こうとした。


届かない。


「ロア!」


呼びながら距離を詰め、もう一度引き寄せる。

今度は青を引き出せた。


やはり、ロアから離れすぎてはいけない。

振り返ったロアは私が追いついたのを確かめると、再びザロスへ向かった。


狙うのはザロスの左脇。昨日、青を当てた場所だ。

ザロスがロアへ向き直り、大剣を持ち上げる。


「ユイナ、左へ!」


私は左へ走った。

ロアは右へ切り返す。


ザロスの動きが一瞬止まった。

どちらを追うのか判断が遅れた隙に、ロアが懐へ飛び込む。


左脇へ手を伸ばすと、赤が一気に引き抜かれた。

昨日崩した部分がさらに崩れていく。


ロアはすぐにザロスから離れた。


見えた。


走りながらガラスペンを構え、青を引き寄せる。


振り抜く。


青はザロスの左脇へ直撃した。


巨体が傾き、左側の胴が大きく崩れる。ザロスは支えきれず、片膝をついた。


「いける……!」


声が漏れた。


「まだだ」


ロアは止まらない。


私も走り続けた。


右腕、背中、左脇。


三か所を大きく崩されても、ザロスは大剣を手放さない。

再び立ち上がり、さっきまでよりも大きく剣を振り上げた。そのままロアへ叩きつけ、かわされると続けて横に薙ぐ。


二度目はぎりぎりだった。

刃がロアの服の端をかすめる。


「ロア!」

「大丈夫だ!」


ザロスがロアを追い、私は二人と並ぶように横へ走った。

離れすぎても、近づきすぎてもいけない。


ロアとザロスの動きを追いながら、足元にも目を配る。

赤く変わった敷石を避けた直後、また大剣が振られた。


ロアが後ろへ下がる。

ザロスが踏み込んだ瞬間、横へ抜けた。


狙いはまた左脇だ。

一度削った場所をさらに広げるつもりなのだろう。


私も位置を変え、ロアとザロスが重ならない場所まで走る。

大剣が地面へ落ちた。


ロアが懐へ飛び込み、右手を伸ばす。


ザロスから吸い上げられた赤が、今まで以上にロアの全身を覆っていく。

ザロスの左脇から胸の下までが、大きく崩れて消えた。


「撃て!」


ガラスペンを振り抜く。

放たれた青が、赤を失った場所へ命中した。


ザロスの胴が大きく崩れ、巨体がよろめく。

手を離れた大剣が石畳へ落ちた。


ザロスは片手を地面につく。

今までで一番深く削れている。


「ロア、あれ!」

「ああ」


ロアも同じものを見ていた。


崩れた左脇の奥。赤に覆われていた体の中に、何かがある。

青で崩れた周囲が形を失うなか、そこだけは崩れていない。


ザロスの体の奥に、丸みを帯びた大きな塊があった。


挿絵(By みてみん)


「何ですか、あれ」

「分からない」


ザロスが腕を伸ばす。

落とした大剣を、もう一度つかもうとしている。


「でも……」


ガラスペンを握り直す。


「あれは、壊さないといけない気がします!」


ロアは塊を確かめ、ザロスへ視線を戻した。


「わかった。塊の周辺をもう少し削る」

「はい」


ザロスの手が大剣の柄を握る。

ロアとの距離を確かめた。


青はまだ引き出せる。

ロアが走り出す。

私もすぐに続いた。



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