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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第6章 禁足地の丘
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第5話 赤には青が通る

昨日も通った分かれ道まで戻ると、ロアが足を止めた。


一方はドレナへ、もう一方はローデン丘へ続いている。丘の頂には大木が立ち、その奥にあるエルガ王城は、ここからでも赤く染まっているのが確認できる。


リゼルが丘へ続く道を見た。


「青を試すなら、どのあたりから?」


図書館でも話し合ったが、実際にザロスへ近づくなら、逃げ道まで考えておかなければならない。


「ザロスが丘にいたら、手前から一度だけ撃ちます。当てたら、すぐに離れます」

「効果があっても無くても?」

「はい。何か起きたとしても、それで勝てるとは思えませんので、一度引きます」


北境の砦では、青を二度使っても、あの青いものを倒せなかった。文香さんのメモにある「通る」が、どこまでの効果を示すのかも分からない。


ロアが丘へ続く道を見据える。


「撃ったら離れる。それでいいな」

「はい」

「私は?」


リゼルが尋ねる。


「私たちより後ろにいてください」

「分かった。邪魔はしないよ」


私たちはローデン丘へ向かった。


しばらくは枯れた畑が続いた。人が通った跡は少なく、敷石の隙間から伸びた草が道の中央まで入り込んでいる。


畑が途切れると、大きな岩が目立ち始めた。進むにつれて、丘の大木が高く見えるようになる。その奥には王城の塔がのぞいていた。


街道が緩やかな上りに差しかかる。


「ここから先、地面が赤くなってる!」


リゼルが自分の足元を見ながら声をあげる。

数十歩先から敷石の色が変わっている。昨日、北側の街道で見たものと同じ赤だ。


ロアが道を外れ、大岩の陰へ入った。私たちもあとに続き、岩の端から丘の上をうかがう。


大木の周辺には何もいない。


王城へ目を向けると、赤い地面の上をザロスが歩いていた。昨日よりも遠く、王城から丘へ向かう街道にいる。大剣は肩に担いだままだ。


リゼルが岩陰から顔を出そうとしたが、ロアが腕で制した。リゼルはすぐに身を引く。


「ここからでも届くの?」


私はザロスまでの距離を確かめた。北境の砦で青を放ったときより、かなり遠い。


「もう少し近づかないと無理だと思います」

「どこまで行く?」


赤く染まった道の手前に、腰ほどの高さの石積みが残っている。

今いる場所からも、それほど離れていない。


「あの石が積んであるところまで。そこから届かなければ、今日は諦めます」


ロアが石積みの先を確認する。


「よし、行こう」


三人で岩陰を出た。


道の端を進み、石積みの裏で身を低くする。

ザロスはまだこちらに気づいていない。


私は鞄からガラスペンを取り出した。


「ロア」

「ああ」


すぐ後ろに立つロアから、図書館で試したときと同じように色を引き出す。

ガラスペンの内部に、少しずつ青が集まってきた。

昨日、机の上で確かめたのと同じ色だ。


「準備はいい?」


リゼルが小声で尋ねる。


「はい」


石積みから半身を出した。

ザロスは街道の中央に立ち、こちらへ斜めに背を向けている。

ここから狙えるのは、背中から左脇にかけてだ。


ガラスペンを横へ振った。

ペン先から伸びた青い帯が、ザロスへ向かう。

巨体がこちらを向こうとした瞬間、その左脇に青が当たった。


ザロスの鎧の表面を覆っていた赤が、青に触れた部分から崩れていく。


挿絵(By みてみん)


ザロスが完全にこちらを向く。

放った青はすでに消えていたが、崩れた左脇は元に戻らない。


北境の砦で見た反応とは違う。

あのときは、青が当たった腕は一度水のように崩れたが、すぐに元の形へ戻った。


「戻れ!」


ロアの声と同時に、石積みから離れた。

ザロスが大剣を肩から下ろし、こちらへ一歩踏み出す。


次の一歩を待たず、私たちは来た道を走った。

大岩の脇を通り過ぎ、そのまま丘を下る。

背後で重い足音が一度、さらにもう一度響いた。


街道が平らになるところまで下り、ロアが振り返る。

私も足を緩め、丘の上を見た。


ザロスは赤い地面の先で立ち止まっていた。

大剣を下げ、こちらを向いている。

だが、それ以上は追ってこない。


「追ってこないな」


ロアが言った。

私たちも足を止める。


リゼルが両膝に手をつき、何度か深く呼吸してから顔を上げた。


「青は通ったってこと?」

「はい。少なくとも、崩れた箇所はすぐに回復しませんでした」


ガラスペンの内部に残る青は、使う前よりも減っている。


「北境の砦では、青を当ててもすぐに回復しました。でも今回は違います」

「じゃあ、『赤には青が通る』って……」

「たぶん、今のことだと思います」


メモの内容は正しかった。

けれど、ザロスは動けなくなったわけでも、傷を負ったようにも見えない。


「ただ、これをどれだけ繰り返せばザロスを倒せるのかは分かりません。一度当てただけですから」


リゼルが丘を見上げる。


「城へ行くなら、あいつを越えないといけないんだよね」

「ああ」


ロアが短く答えた。

リゼルは少し黙ってから言う。


「でも、成果はあった」


私はうなずいた。

青はザロスに通じた。


それでも、あの巨体を相手に、どうやって城まで進めばいいのかは分からない。

丘の上では、ザロスがまだ街道に立っている。


ロアがその姿を見たまま言った。


「次は、あれを倒す方法を考えよう」

「……うん」


リゼルが小さく答える。


「いったん離れるぞ」


私たちは街道を引き返した。

分かれ道に着き、もう一度だけ丘を振り返る。


大木の向こうには、赤く染まったエルガ王城が見えていた。

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