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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第6章 禁足地の丘
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第4話 通る色

「赤には青が通る。青には藍が通る」


紙の最後に記された二行を、もう一度読み上げた。


「どういう意味?」


リゼルが私の手元をのぞき込む。


「まだ分かりません。ただ、色同士の関係を示しているのだと思います」

「ザロスには、北の砦で会ったやつの色が効くってこと?」

「その可能性はあります」


紙には、色には一定の相関、または順序があると書かれている。


ザロスは赤の始原。北境の砦で出会ったものが青の始原なら、二体の色にも何らかの関係があるのかもしれない。


ただ、書いた本人も「要検証」と記している。


「通るって、倒せるって意味なのか?」


ロアが尋ねる。


「そこまでは分かりません。攻撃が効くのか、触れられるようになるのか。それとも、まったく別の意味なのか……」


「書いた人も試してないのかもしれないね」


「はい。『要検証』が最後の二行にもかかっているなら、まだ確かめてはいないはずです」


北境の砦で放った青は、青の始原に効かなかった。青い腕は水のように崩れたあと、すぐに回復した。

相性の合わない色では、始原に干渉できない。

そう考えれば、筋は通る。

でもそんなに単純な話だろうか、、、。


「ほかにも記録がないか、探してみましょう」


私はメモを机に置いた。

ガルダ村で見つけた紙には、ザロスへ近づくなと書かれていた。危険を冒す前に、同じような警告が残っていないか確かめる必要がある。


机に積んだ本を、王家の歴史とエルガ王城に関する記録に分類した。

文字が読めない私は、また頁の間に紙が挟まっていないかを調べる。

リゼルは文章を読み、ロアは本のタイトルを頼りに棚から本を運んだ。


「これも王家の末期について書かれた本だよ」


リゼルが一冊の歴史書を机へ置く。


「滅亡について書かれた箇所を探してもらえますか」

「分かった」


リゼルが本の後半を開いた。

私は別の本を手に取り、傷んだ頁を慎重にめくる。文字は読めなくても、紙が挟まっていれば見つけられる。

だが、日本語で書かれたものは、最初のメモ以外に見つからなかった。


「これは違うな」


ロアが薄い本を閉じた。


「何の本ですか?」

「城へ運んだ物資の記録らしい。人の名前と数ばかりだ」

「こっちも同じだよ」


リゼルが本から顔を上げる。


「エルガ王城に現れたものによって王家が滅びた。それ以上のことは書かれてない」

「ザロスや、赤の始原という言葉は?」

「ないよ。最初の本と内容はほとんど同じ」


別の歴史書にも、王家を滅ぼしたものの姿や力は記されていなかった。


何冊調べても、新しい情報は出てこない。後世に書かれた本も、残っていた記録を写しただけなのだろう。


当時の記録になければ、後世の人間には知りようがない。


「このメモを書いた人は、文献だけで調べたわけではなさそうですね」


私は机の上の紙を見た。


「どうして?」

「始原が色を奪うことも、少なくとも二体いることも、ここの本には書かれていません」


「自分で見たのかな」

「少なくとも、誰かから話を聞くか、実際に始原を調べなければ分からないことです」


ガルダ村の紙には、ザロスへ近づくなとあった。


このメモを書いた人物が同じなら、ザロスだけでなく、北境の砦の青いものについても知っていた可能性がある。


「文香さんだったら、二体とも見たのかな」

「分かりません。筆跡が似ているだけですから」


「でも、ユイナと同じ文字を使う人が、この辺りに何人もいるとは思えないよ」

「私も、同じ人が書いた可能性は高いと思います」


とはいえ、署名がない以上は断定できない。

いつ書かれたものなのか。

なぜ本に挟まれていたのか。それも不明だ。


ロアがメモの最後を指した。


「北境の砦で奪った色は、まだ俺の中にある。ザロスに通るかもしれないなら試してみるか?」

「メモが正しければ、可能性はあります。でも、通ると書いてあるだけで、青でザロスを倒せるとまでは書かれていません」


確かめるには、もう一度ザロスの前へ出なければならない。


ザロスから色を奪うには、ロアが相手へ近づく必要がある。

だが、すでに持っている青を使うだけなら、距離を保ったまま攻撃できる。


「最初から近づく必要はありません」


私はロアを見る。


「北境の砦でガラスペンを使ったときは、青が出ました。でも、私が意図して青を出そうとしたわけではありません。だから次も青を出せるか、少しだけ試してみませんか?」


ロアが片手を差し出した。


私はガラスペンを握り、ロアの中にある色をわずかに引き寄せる。ペン先に集まった色を、何も置かれていない机の上へ細く放った。


青い線が短く走り、すぐに消える。


挿絵(By みてみん)


「青です」

「出たね」


リゼルが机へ身を乗り出す。


「これなら、離れた場所からザロスに試せます。効かなかったら、すぐに逃げましょう」

「なら、すぐ街道へ戻れる場所から試した方がいいね」


リゼルが言った。


「もし青が有効だったら、そのあとはどうしますか?」


私が尋ねると、リゼルは少し考えてから答えた。


「ザロスを避けられるなら、城まで行きたい」


グレンはフィンを追い、ドレナを出た。

それから二人がどこへ向かったのかは分かっていない。


「二人は、あの辺りを通ったはずなんだ。昨日は何も見つけられず、ザロスから逃げただけだ」

「城に手掛かりがあるとは限りませんよ」

「分かってるよ。でも、調べないままじゃ帰れない」


リゼルの答えに迷いはなかった。


「私も行きます」

「ユイナまで行く必要はないよ」


「あります。このメモを書いた人は、ザロスについて調べています。文香さんなのか確かめるためにも、そのあとを追いたいんです」


リゼルがロアを見る。


「俺も行く」

「二人とも、簡単に決めないでよ」


ロアはメモへ目を落とした。


「離れた場所から青を使う。通じなければ逃げる」

「分かった。それなら行く」


私は机の上のメモを折り直した。


「これは持っていきます」


ガルダ村の紙と同じ人物が書いたのなら、この先で確かめられることがあるかもしれない。メモを鞄にしまい、本を棚へ戻していると、一階で鐘が鳴った。


「もうすぐ閉館です」


受付の女性の声が階段の下から届く。

窓の外は、すでに暗くなり始めていた。

私たちは残りの本も棚へ戻し、旧王立図書館を出た。


翌朝、アルディナの西門を出る。


石橋を渡り、昨日来た道を引き返した。ローデン丘へ続く分かれ道が近づくにつれ、行き交う荷車や旅人は減っていく。

やがて、枯れた畑の向こうに大木が見えた。

その奥には、赤く染まったエルガ王城が立っている。


ロアから引き出した青が、ザロスに通じるのか。

確かめられる機会は、一度しかないかもしれない。

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