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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第6章 禁足地の丘
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第1話 王城へ続く道

朝、私たちはドレナの北門へ向かった。


崩れた門の脇には、石造りの見張り台が残っている。上部は一部欠けていたが、内側の階段は使えるようだ。


昨日話を聞いた男が、その下で待っていた。足元には水の入った革袋と、食べ物を包んだ布袋が置かれている。


「出発前に、上から道を見ておけ」

「ローデン丘が見えるの?」

「ああ。城も見える」


男に続いて階段を上った。

見張り台からは、崩れたドレナの町と、その先に広がる平地が一望できた。


「中央に、大きな木が一本立っている丘が見えるだろう。あれがローデン丘だ」


男が北を指す。


平地の中央に低い丘があり、頂上には遠くからでも分かるほど大きな木が立っていた。町から延びる街道は丘を通り、さらに先へ続いている。

さらに遠くには、大きな城がそびえていた。


高い城壁の内側に、いくつもの建物と塔が並んでいる。周囲の町とは比べものにならない規模だ。だが、城の大きさよりも、その色が目を引いた。

城壁も建物も、周囲の地面まで赤く染まっている。灰色の大地の中で、そこだけ色が違う。


「何、あれ……」


リゼルが見張り台から身を乗り出した。


「見たことなかったのか」

「ドレナより先には行ったことがないよ。ここに上ったこともなかったから」

「あそこだけ、昔から見たことのない色をしている。あれを見たうえで近づこうとする者はいない」

「それが禁足地になった理由?」

「何があるのかは知らんが、普通の場所じゃないことくらいは見れば分かる」


リゼルは城を見たまま尋ねた。


「グレンも知ってたんだよね」

「フィンも知っていた」

「それでも二人は向かったんだ」

「フィンを連れ戻すと言って、グレンは聞かなかった。何度も止めたんだがな」


男は、ローデン丘から城へ続く街道を指す。


「丘を越えても一本道だ。そのまま進めば城に着く。丘で二人が見つからなくても、城には行くなよ」

「フィンが城へ行ったかもしれないんだよ」

「だからグレンも追ったんだろうが、二人が戻らなかった場所へ、お前まで入ることはない」


リゼルは答えなかった。

私もエルガ城へ目を向けた。単なる濃い薄いの違いではない。


「あれは赤です」


リゼルが振り返る。


「文香が書いていた色?」

「はい。城だけでなく、周囲にも広がっています」


文香のメモには、赤の始原ザロスがエルガ城周辺に現れると記されていた。

城と大地を覆う赤が、ザロスとどう関わっているのかは分からない。ただ無関係ということはないだろう。


エルガ城は今や、ザロスの居城なのだ。


「北境の砦で見た青の領域と似ているな」


ロアが言った。


「色は違いますが、始原を中心に領域が広がっている点は同じです」

「入れば、何が起きるか分からないな」


リゼルが私たちを見た。


「丘の手前まででいい。約束どおりで」

「ああ」


ロアが答えた。

見張り台を下りると、男は食べ物を入れた布袋をリゼルへ、水の入った革袋をロアへ渡した。


「丘までは、この街道をまっすぐ行くだけだ」

「ありがとう。二人を見つけたら、ドレナにも知らせるよ」

「ザロスっていうんだっけ? そいつがいたら、近づかないですぐに戻れよ」

「分かってる」

「三人とも、生きて帰ってこい」


私たちは北門を出て、ローデン丘へ続く街道を進んだ。

町の近くには、壊れた家や作業小屋が残っている。壁の一部が粉になり、屋根だけが地面に落ちた建物もあった。


やがて建物は途切れ、背の低い草が街道の両側を埋めた。石畳はところどころ外れてはいるものの、ガルダ村へ向かった道のように途中で消えてはいない。

先頭を歩くリゼルは、何度もローデン丘を見ていた。


「フィンが城へ向かうところを、誰かが見たんですか」

「見た人はいないよ。ただ、あの子は前から城のことを知りたがってた」

「どうしてですか」

「誰も近づかないから。聞いても、危険だから行くなとしか教えてもらえない。フィンは、それで諦めるような子じゃなかった」

「自分で確かめに行ったのか」


ロアの言葉に、リゼルがうなずく。


「たぶんね。グレンもそう考えて、あとを追った」


フィンがエルガ城へ向かったという証拠はない。

グレンが城まで追ったのかも分からない。

ただ、ほかに二人の行き先を示すものはない。

昼を過ぎた頃、街道脇で短い休憩を取り、食事を済ませてから再び歩き始めた。


丘が近づくにつれ、大きな岩が増えていく。頂上の大木は、見張り台から眺めたときよりはるかに大きかった。

街道は岩の間を抜け、丘へ向かって緩やかに上っている。


その途中から、地面が赤く染まっていた。

城を覆っていた赤い領域は、ローデン丘まで達している。


私たちは足を止めた。


約束したのは、丘の手前までだ。

リゼルが赤い領域の先を見た。


「ここまで来たなら、二人も――」


その先に、巨大な人影があった。


人の三倍ほどはある体が片膝をつき、地面へ突き立てた大剣の柄を握っている。うつむいたまま動かず、体の表面は赤い炎のようなもので覆われていて絶えず揺れ動いていた。


挿絵(By みてみん)


ロアがリゼルの前に片腕を伸ばす。


「止まれ」


ガルダ村を襲い、ドレナの人々を消した赤の始原。

ザロスがゆっくり顔を上げた。


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