第7話 グレンの足取り
翌朝、私たちはガルダ村を発ち、リゼルの案内で北へ進んだ。
ドレナまでは半日もかからないという。ところどころ道が崩れていたものの、通れないほどではない。
昼前、ドレナの町を囲む石壁が見えてきた。リゼルは足を速めたが、町の様子がはっきりするにつれ、その足は重くなった。
外壁は一部が崩れ、門の片側が地面に倒れている。中に並ぶ建物も、屋根や上階を失っていた。
「こんなことになってるなんて……」
「前に来たときは無事だったのか」
「あれに襲われてから来るのは初めてだよ。それ以前は、商人も傭兵も大勢いた」
門の前には三台の荷車が止まり、木材や布袋が積まれていた。町に残る物を運び出しているようだ。片腕に布を巻き、腰に短剣を下げた男が近づいてきた。
「町へ入るのか」
「人を捜してるんだ。グレンっていう傭兵を知らないか。大柄な男で、ガルダ村の出身だよ」
男はリゼルの顔を確かめるように見た。
「グレンの姉さんか?」
「弟を知ってるの?」
「ああ。何度か一緒に仕事をした」
リゼルが男へ詰め寄った。
「グレンは戻ってきた? 末の弟を捜しに村を出たまま、帰ってこないんだ」
「戻ってきたよ」
「いつ?」
「この町が襲われる少し前だ。弟がいなくなったと言って、知り合い全員に聞いて回ってた」
「それから、どこへ?」
男は町の奥へ目をやった。
「中で話そう」
倒れた門を越えて町へ入った。通りでは何人かの男たちが、崩れかけた建物から荷物を運び出している。
「ここを襲ったのは、大きな男ですか」
男が振り返る。
「ああ。あれに触れられた物も人も崩れて消えた」
「ザロスだな」
ロアの言葉に、男が足を止めた。
「名前を知ってるのか」
「ガルダ村に残された紙に書いてありました。近づくな、とも」
「その忠告は正しい。まともに相手をして、どうにかなるものじゃない」
男は外壁近くの小屋へ私たちを案内した。中には机と椅子が置かれ、壁に剣や革袋が掛かっている。
リゼルが椅子に座ると、男は向かいに立った。
「グレンは戻ってくるなり、フィンを見なかったかと聞いて回った。誰も知らなかったが、一人だけ心当たりのある行商人がいた」
「フィンを見たの?」
「本人かどうかは分からない。ただ、背格好も年頃も合っていた。町の東で、若い男に道を尋ねられたそうだ」
「どこへ行く道を?」
「ローデン丘だ」
リゼルが眉を寄せる。
「王城の近くじゃないか」
「ああ。今は好きこのんで近づく者もいない。行商人も止めたらしいが、聞かなかったそうだ。自分で確かめたいことがある、と言ってな」
リゼルは顔を伏せた。
「フィンだよ。間違いない」
「心当たりがあるのか」
ロアが尋ねる。
「あの子は、昔の王城に何が残ってるのか知りたがってた。何度も聞かれたけど、禁足地だとしか教えなかった」
「何を確かめたかったんでしょう」
「分からない。でも、気になったことを放っておける子じゃないんだよ」
リゼルは顔を上げた。
「グレンもその話を?」
「聞いた。その日のうちにローデン丘へ向かったよ」
「一人で?」
「何人かが付き合うと言ったが、断った。弟を連れ戻すだけだと言ってな」
リゼルは唇を結んだ。
「水と食べ物を持ち、東門から出ていった。それがグレンを見た最後だ」
「いつの話?」
「町が襲われる二日前だ」
「じゃあ、ザロスが来たのはそのあとなんだね」
「ああ。町を襲ったあと、あれは南へ向かった」
「南なら、ガルダ村の方だ」
ロアの言葉にリゼルがうなずく。
ザロスはドレナを襲ったあと、南のガルダ村へ向かった。一方、グレンはフィンを追い、東のローデン丘へ進んでいる。
リゼルが立ち上った。
「ローデン丘までの道は残ってる?」
「途中までは確認している。ただ、丘の近くまで行った者はいない」
「明日の朝、出る」
「グレンが出てから何日も経ってる。今から追っても――」
「何日経っていても、ここで待ってるわけにはいかないよ」
リゼルは私とロアに向き直った。
「ローデン丘まで付き合ってほしい」
ロアは少し考えてから答えた。
「丘の手前までだ。危険があれば引き返す」
「それでいい」
私たちはその夜、ドレナに泊まることにした。
フィンを追ったグレンの足取りは、ローデン丘へ続いている。
二人が今もそこにいるのかは、誰にも分からなかった。




