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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第5章 文香の痕跡
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第7話 グレンの足取り

翌朝、私たちはガルダ村を発ち、リゼルの案内で北へ進んだ。

ドレナまでは半日もかからないという。ところどころ道が崩れていたものの、通れないほどではない。


昼前、ドレナの町を囲む石壁が見えてきた。リゼルは足を速めたが、町の様子がはっきりするにつれ、その足は重くなった。

外壁は一部が崩れ、門の片側が地面に倒れている。中に並ぶ建物も、屋根や上階を失っていた。


「こんなことになってるなんて……」

「前に来たときは無事だったのか」

「あれに襲われてから来るのは初めてだよ。それ以前は、商人も傭兵も大勢いた」


門の前には三台の荷車が止まり、木材や布袋が積まれていた。町に残る物を運び出しているようだ。片腕に布を巻き、腰に短剣を下げた男が近づいてきた。


「町へ入るのか」

「人を捜してるんだ。グレンっていう傭兵を知らないか。大柄な男で、ガルダ村の出身だよ」


男はリゼルの顔を確かめるように見た。


挿絵(By みてみん)


「グレンの姉さんか?」

「弟を知ってるの?」

「ああ。何度か一緒に仕事をした」


リゼルが男へ詰め寄った。


「グレンは戻ってきた? 末の弟を捜しに村を出たまま、帰ってこないんだ」

「戻ってきたよ」

「いつ?」

「この町が襲われる少し前だ。弟がいなくなったと言って、知り合い全員に聞いて回ってた」

「それから、どこへ?」


男は町の奥へ目をやった。


「中で話そう」


倒れた門を越えて町へ入った。通りでは何人かの男たちが、崩れかけた建物から荷物を運び出している。


「ここを襲ったのは、大きな男ですか」


男が振り返る。


「ああ。あれに触れられた物も人も崩れて消えた」

「ザロスだな」


ロアの言葉に、男が足を止めた。


「名前を知ってるのか」

「ガルダ村に残された紙に書いてありました。近づくな、とも」

「その忠告は正しい。まともに相手をして、どうにかなるものじゃない」


男は外壁近くの小屋へ私たちを案内した。中には机と椅子が置かれ、壁に剣や革袋が掛かっている。

リゼルが椅子に座ると、男は向かいに立った。


「グレンは戻ってくるなり、フィンを見なかったかと聞いて回った。誰も知らなかったが、一人だけ心当たりのある行商人がいた」

「フィンを見たの?」

「本人かどうかは分からない。ただ、背格好も年頃も合っていた。町の東で、若い男に道を尋ねられたそうだ」

「どこへ行く道を?」

「ローデン丘だ」


リゼルが眉を寄せる。


「王城の近くじゃないか」

「ああ。今は好きこのんで近づく者もいない。行商人も止めたらしいが、聞かなかったそうだ。自分で確かめたいことがある、と言ってな」


リゼルは顔を伏せた。


「フィンだよ。間違いない」

「心当たりがあるのか」


ロアが尋ねる。


「あの子は、昔の王城に何が残ってるのか知りたがってた。何度も聞かれたけど、禁足地だとしか教えなかった」

「何を確かめたかったんでしょう」

「分からない。でも、気になったことを放っておける子じゃないんだよ」


リゼルは顔を上げた。


「グレンもその話を?」

「聞いた。その日のうちにローデン丘へ向かったよ」

「一人で?」

「何人かが付き合うと言ったが、断った。弟を連れ戻すだけだと言ってな」


リゼルは唇を結んだ。


「水と食べ物を持ち、東門から出ていった。それがグレンを見た最後だ」

「いつの話?」

「町が襲われる二日前だ」

「じゃあ、ザロスが来たのはそのあとなんだね」

「ああ。町を襲ったあと、あれは南へ向かった」

「南なら、ガルダ村の方だ」


ロアの言葉にリゼルがうなずく。

ザロスはドレナを襲ったあと、南のガルダ村へ向かった。一方、グレンはフィンを追い、東のローデン丘へ進んでいる。

リゼルが立ち上った。


「ローデン丘までの道は残ってる?」

「途中までは確認している。ただ、丘の近くまで行った者はいない」

「明日の朝、出る」

「グレンが出てから何日も経ってる。今から追っても――」

「何日経っていても、ここで待ってるわけにはいかないよ」


リゼルは私とロアに向き直った。


「ローデン丘まで付き合ってほしい」


ロアは少し考えてから答えた。


「丘の手前までだ。危険があれば引き返す」

「それでいい」


私たちはその夜、ドレナに泊まることにした。

フィンを追ったグレンの足取りは、ローデン丘へ続いている。

二人が今もそこにいるのかは、誰にも分からなかった。

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