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畫界アルカディア  作者: 三島 唯奈
第13章 再会と旅立ち
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第5話 エルメア港の船探し

 エルメア港へ向かう途中、私たちは街道沿いの宿で何度か夜を過ごした。


 ロアの腕の傷は、まだ完全には治っていない。セレンが毎日手当てをしており、痛みも少しずつ和らいできているらしい。


「ロア、船に乗る頃には傷もよくなっているといいですね」

「ああ。だいぶ良くなってきたから、心配するな」


「今度は無理しないでくださいね」

「分かってる。傷が治るまでは、腕に負担をかけないようにするよ」


 馬車と馬四頭を運べる船は限られているため、すぐに出航できるとは限らない。何日か待つことになっても、その間にロアの傷がもう少し良くなるかもしれない。


 できるだけ早くリゼルさんに会いたいけれど、今は急ぎすぎない方がいいのかもしれない。


     *


 昼を過ぎた頃、私たちはエルメア港のある町へ入った。

 通りを進むにつれ、潮の匂いが強くなってくる。


「そろそろ海が見える頃だよ」


 御者台からカレンの声が聞こえた。

 エマは待ちきれない様子で窓に顔を近づけている。


 やがて、建物の間から海が見えてきた。


「あっ!海だ!」


 エマが嬉しそうに声を上げる。

 港には大きな船が何隻も停泊していた。


 以前、ロアと二人でここへ到着したときは、船を降りてセレンを探すことだけを考えていた。今日は、これから海を渡るための船を探しに来ている。


「お母さん!あの船に乗るの?」

「まだ決まってないよ。まずは馬車と馬を運んでくれる船を探さないとね」


「大きい船なら乗れるんじゃないの?」

「大きければいいってものじゃないんだよ。馬が安全に乗り降りできるかどうかも大事だからね」


 私には、どの船なら馬車を運べるのか見当もつかない。

 ここはカレンに任せるしかなさそうだ。


     *


 私たちは港の近くで宿を取り、馬車と馬を預けた。


「さて、船を探しに行こうか」


 私たちは、カレンが知り合いから紹介された商人を訪ねた。

 港の商館へ入り、カレンが紹介者の名前を伝えると、奥の部屋へ案内された。


 しばらくして、年配の商人が現れた。


「お待たせしました。船をお探しだそうですね」

「ああ。ネレイ港まで渡りたいんだ。大人四人と子ども一人、それから大型馬車一台と馬が四頭いる」

「馬車と馬四頭ですか。普通の客船では無理でしょうね」


 商人は机から帳面を取り出し、何枚かページをめくった。


「ネレイ港へ向かう船はいくつかありますが、馬を運べる船となると限られます」


 商人は帳面を確かめながら、しばらく考えていた。


「数日後に出航する貨客船なら、馬を載せる設備があります。大型の荷物も運べますから、馬車も積めるかもしれません」

「馬車も一緒に運べるなら助かるね」


「ただ、大きさと重量によりますので、船長に確認する必要があります」

「なら、その船を見せてもらえないかい?実際に確かめてから決めたいんだ」


「構いませんよ。ちょうど港に停泊していますから、ご案内しましょう」


     *


 商人に案内されて岸壁へ出ると、目当ての船は少し離れた場所に停泊していた。

 以前、私とロアが乗った客船よりも大きく、甲板では何人もの船員が荷物を運んでいる。


挿絵(By みてみん)


「馬車は船に備え付けられた吊り上げ装置で積み込めます。馬は専用の渡し板を使って乗せることになります」


 商人の説明を聞き、カレンが尋ねた。


「馬を置く場所も見せてもらえるかい?」

「ええ。船長に確認してきます」


 しばらくして商人が戻り、私たちは船内へ案内された。


 馬を置く場所には、一頭ずつ繋いでおける区画が設けられていた。床には滑りにくい板が敷かれ、隣の馬とぶつからないよう仕切りもある。


 カレンは通路の幅や仕切りを確かめてから、船長に話しかけた。


「航海中、馬の世話はどうするんだい?」

「餌と水はこちらで用意できますが、普段から世話をしている方がいるなら、その方に見てもらった方が馬も安心するでしょう」


「だったら、あたしが面倒を見るよ。馬たちは知らない人だと警戒するからね」

「構いません。ただし、海が荒れているときは、こちらの指示に従っていただきます」


「ああ。それはもちろんさ」


 カレンは船が揺れた場合の対策についても確認していた。

 私はその様子を見ながら、改めてカレンの頼もしさを感じた。

 私たちだけで来ていたら、何を確認すればいいのか分からなかっただろう。


「馬車についても確認したいね」


 カレンが言うと、船長はうなずいた。


「実物を見せてもらえれば判断できます。寸法だけでは、積み込みの際に問題が出ることもありますから」

「馬車は港の近くの宿に預けてあるんだ。そこまで来てもらえるかい?」


「ええ。今日の作業が一段落したら伺いましょう」


     *


 港から宿へ戻ってしばらくすると、船長が商人と一緒にやって来た。

 船長は馬車の寸法を測り、重量についてカレンに確認した。


 私は少し離れたところで、その様子を見守った。

 もし積めなければ、また別の船を探さなければならない。


 やがて、船長が顔を上げた。


「これなら積めると思います。大きさも重量も問題なさそうです」

「そうかい。よかったよ」


 カレンが安心したように笑った。


「馬四頭についても、先ほど見ていただいた設備で運べます。ただし、出航前には馬の状態を確認させてください」

「ああ。もちろんだよ」


 これで、馬車と馬を運べることが確認できた。

 私たちは商人と一緒に商館へ戻り、正式な料金について話し合った。


「馬車一台と馬四頭、それに五名分の乗船料ですから、かなりの金額になります」


 商人が提示した金額を聞いて、私は驚いてしまった。

 普通の客船で海を渡る場合と比べても、ずっと高い。


「……セレン、本当に大丈夫ですか?」


 隣に座るセレンへ小声で尋ねると、彼女は笑った。


「大丈夫だよ。思っていたくらいの金額だから」


 料金には馬車と馬の運搬費用のほか、乗船中の食事や馬の飼葉代も含まれていた。

 カレンも追加で必要になる費用がないことを確認し、私たちはその船を利用することに決めた。


 セレンが手付金を支払うと、商人が説明を始めた。


「出航は三日後を予定しています。ただし、天候によっては遅れる場合もありますので、その点はご了承ください」

「分かりました」

「積み込みは出航の前日に行います。馬車と馬を連れて、指定した時間までにお越しください」


 カレンが日時を紙に書き留めた。

 これで、ルヴェリアへ渡る船が決まった。


     *


 宿へ戻る頃には、夕方になっていた。


 カレンは馬たちの様子を確かめに行き、エマもそのあとをついていった。

 私とセレンは部屋で船の書類を確認していた。


「やっと決まりましたね」

「うん。カレンがいてくれて助かったよ。馬車のことは私だけじゃ判断できなかったからね」

「そうですね。私も、あんなにいろいろ確認する必要があるとは思いませんでした」


 セレンは書類を鞄へしまった。

 ロアは窓際の椅子に座り、港の方を眺めている。


「リゼルさんたち、今もドレナにいるでしょうか」

「手紙にはそう書いてあったな。俺たちが着くまでいてくれるといいんだが」

「はい……」


 リゼルから手紙が届いて、ようやくルヴェリアへ戻ることになった。

 グレンに会えるのは嬉しい。


 けれど、フィンについては、まだ何も分からない。

 リゼルが直接話したいと書いていたことも気になっている。


 ロアが私の方を向いた。


「ユイナ、今から心配しても仕方がない。会ってから聞こう」

「……そうですね」


 私はうなずいた。

 船の出航までは、あと三日。


 もう一度、ルヴェリアへ。

 今度はロアと二人だけではない。


 セレンも、カレンも、エマも一緒だ。

 出航の日が、少し待ち遠しくなった。

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